石川瑠華×外山文治 ─ 心を掻き乱されそうになる女優 外山文治監督の「きとらすばい」 2022.11.11
外山文治監督が、これからの映画シーンで活躍する高いポテンシャルを持った「きとらすばい(きてるぞ!)」な俳優をご紹介します!今回のゲストは石川瑠華さんです。
石川瑠華さんとの対談は、いつもとは違う雰囲気で進んだ。
「ひどいなあ!志田彩良さんとの対談はもっとちゃんと緊張してたでしょ!人によって態度変えるのやめてください!」と石川さんはけらけらと笑っていた。私もお腹を抱えて笑っていた。連載始まって以来、もっとも和やかな対談である。石川さんと出会ったのは三年以上も前で、私はまるで親戚の子とお喋りするような感覚に陥ってしまう。だから今、彼女が新進気鋭の若手俳優として目の前にいることにいささか照れながら、お互いに目が合っているのかどうかも疑わしい距離感でたわいない話を続けた。近年の彼女の活躍は目覚ましい。主演映画が立て続けに公開されて「日本映画批評家大賞・新人女優賞」も受賞した。しかし彼女は自分の活躍もどこ吹く風であまりに自然体なのである。
「外山さんとの初対面は『ソワレ』のヒロインオーディションでしたね。あれは全然できなかったな」
「そんなことないよ。ヒロイン以外の役になったけど“あの子は凄い”と満場一致で役が決まった」
拙作のオーディションで石川さんは募集とは違う役にキャスティングされた。それは審査する側が彼女の纏う雰囲気に惹かれたことに他ならない。爪痕を残すという言葉もあるが、それよりもっと本質的に「作品に必要な気がする。落としてはダメだ」と心がざわついたからである。
「“ざわつく”とよく言われます。“なに考えてるの?”とか“なに食べてるの?”と聞かれることも。でも、そう見えるときの私は意外と白紙かもしれないです。ないものねだりで、“癒し系“みたいな人になれたらなとも思うのですが、無意識に人の真実とかを求めてしまうから、自分でもそういう自分が腹立たしくなる時があります。相手からしたら、重いですし。もっと軽やかに生きれたらいいのに」
白紙――。だから人々は勝手に想像して心にさざ波を立てるのだろうか。なるほど、私が彼女と目を合があっているのか分からない距離に立つのは無意識に心を掻き乱されるのを避けているということかもしれない。
さて、近年の石川さんは映画だけでなくドラマにMVにCMにと活動の幅を広げているが、意識的に多岐に渡るジャンルに挑戦しているのだろうか。
「こういう女優像でいきたいという野望がないので。それよりも新しく出会う人達からのイメージに向き合おうと思ってます。本来の自分とは違うものを見てくれている人の中に染まっていけば、新しい変化が生まれるんじゃないかと思うから」
野望がないという言葉に嘘はない。かつて大学生活が嫌で、自分が嫌いで始めたという女優業ではあるが、そこは真実を求めてしまう彼女にとってあまりに虚実混淆の世界であったはずだ。彼女は女優然としなくてはいけない状況も、同年代の女優の中で自分が踏み出していくことも怖いと言う。強欲さよりも「いち人間」であることを大事にしたいのだと言う。私のことも映画監督としてではなく人間として扱ってくれているのが分かるから、かつてないほどリラックスした対談になっているのだろう。
「地に足がつかなくなりたくないです。自分を収めて浮いたところに居場所を見出すこともできるけど、それだったら自分は“迷子”くらいでいいです。不安定でいいんです。背伸びは体質的に合わないから」
自分らしくあれる場所がこの業界にあればいいなと私は親戚のおじさんの役目のように祈る。たとえ迷子のままであっても沢山の笑い声に包まれる活動ができますようにと心を込めて祈る。
「そうだ。今回のコラムのタイトルは『ざわつく女』でいい?」
「絶対ダメです。誰が読むんですかそんなの」
石川瑠華さんはまたけらけらと笑った。
石川瑠華
いしかわるか|俳優
1997年3月22日生まれ。埼玉県出身。17年から俳優としての活動を開始。2018年に公開された『きらきら眼鏡』でスクリーンデビュー。その後も数々の主演を務め、『ビート・パー・MIZU』にて「MOOSIC LAB2019」短編部門の最優秀女優賞、『猿楽町で会いましょう』では第31回日本映画批評家大賞新人女優賞(小森和子賞)を受賞。近作に『左様なら』『ソワレ』『Shell and joint』『stay』『うみべの女の子』などがある。
外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。
撮影・文 / 外山文治
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1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。