『GO』行定勲監督が描く人間のもろさと、窪塚洋介さんが魅せる強さ【水石亜飛夢の映画ノート page.3】 2022.10.21
水石亜飛夢さんが、いま一番気になる映画監督の過去作を鑑賞し、見どころ、印象的なシーン、俳優視点で感じたことなどをお伝えします。真面目なお話から、ちょっとプライベートなことまで!?水石さんの等身大の気持ちが記された映画ノートをお楽しみください。
今回の作品は、行定勲監督の『GO』です。
イラスト / 柳田優希
『GO』
監督 / 行定勲
出演 / 窪塚洋介、柴咲コウ、大竹しのぶ、山崎努
あらすじ
国籍が韓国の高校3年生・杉原は将来の夢もなく喧嘩ばかりの日々を送っていた。不思議な魅力を持った少女・桜井と出会い付き合うことになり、いよいよ自分の国籍のことを伝えなくてはと思っていたある日、同じ国籍の親友に悲劇が起きて…。
行定勲作品で描かれる人間のもろさ故のあやうさ
行定監督の作品はすべて観ていますとは言い切れないのですが、『世界の中心で、愛をさけぶ』、『ピンクとグレー』、『リバーズ・エッジ』、『劇場』、『窮鼠はチーズの夢を見る』などを拝見していて、思い返すと人間のもろさ故のあやうさを巧みに描いた作品が多いように感じています。大スクリーンで、人の繊細で弱い部分や、ある意味での強さといったリアルな人間味を堪能できる作品を手がけていらっしゃる監督というイメージがあります。
役と自分の間を埋めるという役作りのやり方
本作『GO』を初めて観たのは2018年。作品でご一緒した助監督さんから勧めてもらった作品のひとつでした。それで、当時マネージャーさんに送っていた日報に作品の感想が残っていたので、読み返してみたんです。つたない語彙力ながら、“男なら憧れちゃうかもしれない”“過去にフィーバーが起きていたのも納得”“「これが窪塚洋介だ!」と言われているようなお芝居”と書いてあって、かなり衝撃を受けていたことがわかりますね(笑)。メイキングも一緒にチェックしていて、「役と自分の間を埋める、という言葉が印象に残った」というメモが残っているんですが、あんなに荒々しい印象の窪塚さんも、かなりの勉強家だったんですよね。
改めて作品を観て、セリフをセリフと思わせない、窪塚さんが主人公・杉原そのままの人だと感じさせるところがすごいと思いました。それは、こういう風に言おうと狙って言葉を発するのではなく、窪塚さん自身の生き様やハートが滲み出ているからなんじゃないかな。杉原と窪塚さんは別の人間だから、もちろんそこに距離があるんだろうけど、役と自身を近づけていく作業が、ふたりの間を埋めるということなのかなと思いました。
変化してきた役へのアプローチ
僕はデビュー当時はキャラクターを演じていたこともあって“役を自分に寄せる”ということがわからなかったし、“演じる”ことは他人になることだと思っていたんです。自分ではない誰かになって、日常生活では味わえない心の動きが体感できるのが楽しかったんですよね。普段、とがった言葉を使ったりしないし、怒りの沸点が高いので感情的になったりすることもあまりなくて。でも、役の力を借りることで、自分の心がこんなにも動くのかと知って、芝居に夢中になったんです。
だから、原作のある役以外でも、自分の中で正解を作って、そこに寄せていくやり方で演じていたんですが、いろいろな現場を経て、この数年で役作りのやり方も変化してきました。自分にないものを役で表現しようと思っても嘘っぽくなるし、自分は自分だから、と思うようになったんです。それに、その役に僕を選んでいただいたということは、演じる上での種になるものが自分の中にあるのかなって最近は感じることもあります。
例えば、これまでの出会いや経験があって、俳優という道を選んで今の生活をしているけど、もし環境が違ったら別の人生だったわけで、別の世界線の自分だとしたらどうだろう、というアプローチをするようになりました。ここ数年、作品だけでなく、レポーターなど素の自分を出すお仕事を通して、芝居でも自信を持って自分にしかできないものを出していきたいというスタンスに変化してきましたね。
国籍や差別について作品を通して感じたこと
杉原が言う「俺はライオンだ!」っていう言葉がすごく頭に残っていたんです。周りが勝手にそう呼んでいるだけで、ライオンは自分のことをライオンだと思っていないということを、“在日”と呼ばれる自身の生まれと重ねて発した言葉なんですが、改めて、やっぱり名言だなって思いました。
今は当時に比べて差別も少しずつ減ってきていると思うし、若い人の間では差別すること自体がダサいと言われる時代だと思うんです。それは、問題に目を向けて発信してきた作品が評価されて、名作として語り継がれたことで、時代を超えていろいろな人に届いたからなんじゃないかな。今、杉原と同じ高校生の子たちが観て、ああいう時代に対してダサいと思ってもいいと思うし、差別について今まで考えてこなかった人が、新たに気がづくとか、作品を見て感じることはなにかしらあると思います。自身を振り返ってみる機会にもなると思うので、いろんな人に観てもらえたらいいなと思います。
行定監督の新作への期待
行定監督の新作『リボルバー・リリー』が‘23年に公開されますが、以前お世話になった紀伊宗之プロデューサーが手がけているんです。紀伊さんは『孤狼の血』シリーズや『シン・仮面ライダー』などハードボイルドな作品をやっていて、一方で行定監督にはアクションのイメージがなかったので、観たことのない行定作品が生まれるんじゃないかと今から楽しみです!
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1996年1月1日、神奈川県生まれ。ドラマ「あなたの番です。」「相棒17」、映画『青夏』映画『センセイ君主』など話題作に出演。「魔進戦隊キラメイジャー」では押切時雨役/キラメイブルーを務めた。近作に『鋼の錬金術師 完結編』がある。