『MONDAYS』から得る反省と、“飲んで明日を掴む”ヒント

折田侑駿


©CHOCOLATE Inc.

「あれ。これってデジャヴュ!?」と、誰に向けるでもなく一人でよく口にする。私だけだろうか。みんな私の前で口にしていないだけで、じつは一人でこっそりと口にしていたりするのではないだろうか。たとえば、いま。ほら、私とあなたがこんなやり取りをするのも、初めてじゃなかったりだとか。少なくとも私は、このとおりの文章を書いたことがある、気がする──。というようなことを考えていたことが過去にあった、気がする──。

『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』はタイトルから分かるとおり、“タイムループもの”の映画だ。とある小さな広告代理店のオフィスで働く主人公たちは、慌ただしい一週間を終えると、なぜか必ず同じ〈月曜日/MONDAY〉を繰り返す状態に陥っている。どこか身に覚えのある事象に対して「デジャヴュ!?」となるも、この“マンデイズ(=月曜日を繰り返す者たち)”は、ただただ同じ月曜日を繰り返しているのだ。これまたタイトルから分かるとおり、その原因はどうやら上司にあるらしい。一人、また一人とこれに気がついた面々は、一丸となってループから抜け出すための奮闘を繰り広げていくのだ。(※「マンデイズ」という名は便宜上、筆者が勝手に命名したもの)


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たしかに、「日常」とは繰り返すものだ。朝があって、昼になり、夜がきて、また朝になる。それも月曜日から火曜、水曜、木曜、金曜、土曜、日曜、そしてまた月曜、火曜、水曜……と、ぐるぐる繰り返し続ける。私たちはそんな日常に刺激を求め、仕事帰りに一杯ひっかけたり、風呂上がりに晩酌をしたり、「今日くらいいいよね……?」と虚空に向かって呟いては休日前の夜に飲んだくれ、せっかくの休みを台無しにしたりするものだ。

これで日常が豊かになればよいが、なかなかそうもいかない。日曜の夜には待ってましたとばかりに『サザエさん』の一派が我が物顔で人情喜劇を演じ上げ、それを目/耳にした私たちがユーウツな気分のまま床に入れば、またウンザリな月曜日がやってくる。そうして火曜、水曜、木曜とやり過ごし、再び金曜の夜を目指すものだろう。残念ながらすべてはデジャヴュではないのだ。平穏無事に日々を過ごせるというのは何よりだと思う反面、マンデイズのように“前進”がないのはやるせない。だからこの者たちは代わり映えしない現在(いま)から抜け出して新しい明日を掴むため、小さな努力を少しずつ重ねる。あらすじだけをなぞると荒唐無稽なSFコメディ映画のように思えるが、じつのところそこには、マジメに地道にいまを生きる人々の涙ぐましい姿が刻まれているのだ。


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マンデイズの奮闘ぶりを前にすると、日々の辛さから自棄酒に走ったり、くさくさする気分を「華金」にリバースしてしまうのは、ひどく不道徳的なものだと反省せざるを得ない。しかし、そうでもしないとやっていられないのがこの世知辛い世の中でもある。酒飲みにとってのデジャヴュとは、酩酊時に垣間見た未来なのだ(たぶん)。仕事に支障が出ない程度であれば誰に文句を言われる筋合いもないが、“預言者”を気取ってしまうような方は要注意である。さて、本作に「お酒」は登場しないが、“飲んで明日を掴む”私たちのヒントになるものを見出すことができる。未来の自分に向かってサインを送ればいいのだ。たとえば私はよくメモを書き残している。ブラックアウトするその寸前、おそらくやってくるであろう明日の自分に向かって手紙を書く。無意識のうちに行うこの行為は未来に向けた祈りだ。現在の私に昨夜の私が残した言葉は、「宵越しの銭を持たずに町へ出よ」である。なるほど……。


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『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』
監督 / 竹林亮
脚本 / 夏生さえり、竹林亮
出演 / 円井わん、マキタスポーツ
公開 / 10月14(金)より渋谷シネクイント 他
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折田侑駿 文筆家

“名画のあとには、うまい酒を”がモットー。好きな監督は増村保造、好きなビールの銘柄はサッポロ(とくに赤星)。

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