福地桃子×外山文治 ─ ずっと観ていたいと強烈に思う俳優 外山文治監督の「きとらすばい」

外山文治

外山文治監督が、これからの映画シーンで活躍する高いポテンシャルを持った「きとらすばい(きてるぞ!)」な俳優をご紹介します!今回のゲストは福地桃子さんです。

ずっと観ていたいと強烈に思わされる俳優がいる。今は亡きある巨匠監督が「優れた俳優はフィルムに居心地の良さを焼き付ける」と仰られていたが、今回のゲスト・福地桃子さんの魅力はまさにその言葉に集約される。物語の中に佇む姿がなんとも心地よく、不思議と視線を奪われて、やがて目が離せなくなる。

「明確にいつから俳優に興味を持ったのかは解らないんです。小さい時から、性格的になのか自分の心の中にある沢山の想いを言葉にすることが得意ではなくて。歳を重ねていくにつれて、自分では言えないことも誰かの言葉を借りてなら伝えられるかもしれないと思うようになりました。お芝居を通じて自分がその役を体験したらどうなるだろうという興味もありました。“チャレンジしたい気持ち”を大切にしたかったんです」


一般的に芸能界を目指す人間は、その過程において「自分なりの物語」を作っていく。それが上京する起爆剤になったりもする。しかし彼女の場合は、純粋に物語そのものに溶けていくことを欲しているようにも思えた。ところで彼女の挑戦を周囲は反対しなかったのだろうか。

「想像ができなかったんじゃないかなと思います。人前に出て表現することを。だから今は周囲にも芝居を通して、これまで見せられなかった感情や一面を観てもらえていると思います」

自我による芝居ではなく芝居の中で自我を見出していくこと。それを撮影現場の特殊な緊張感の中で試みるのは容易ではない。そこにも女優としての資質を感じる。近年ではどこか傷ついた人、哀しい想いをしたことのある役を演じる機会の多い彼女だが、役作りの秘訣はあるのだろうか?

「咀嚼できない感情は一度忘れて、撮影場所の土地に行ったときに得られるものを大事にしてます。どう表現しようか悩んでいた時に感じていた身体の重さが、軽くなる瞬間がありました」


現在公開中の『あの娘は知らない』は、まさに自らが役に重なり登場人物の心と一体化した瞬間が刻まれた作品と言えるだろう。ヒロインの哀しみと瑞々しい生命力が漲る、ささやかながらも珠玉の映画である。

「同年代の井樫監督と、共演者の方々と、皆で同じ方向を向いて作れたと思います。監督はいつも見守ってくれて愛情の深い方でしたし、私自身、今回の役から与えられることも沢山あって温かな現場でした」


インタビュー中、彼女は常に人の繋がりに対して感謝を口にしていた。その姿に、おそらく製作陣の誰もが彼女のために尽力したくなったのではないかと私は思いを巡らせる。それもまた優れた俳優の資質だ。彼女が役を演じるとき、これからも私たちは福地桃子という人間そのものを知ることになるのだろう。そして、その機会はますます増えていきそうである。

「大人になるときっと指摘を受けることも、意見を言ってもらえることも今よりもなくなると思うので、その瞬間にもらった言葉を大事にしたいです」

そんな素敵な言葉を紡ぐ彼女から、いつまでも目が離せそうにない。

福地桃子
ふくちももこ|俳優
1997年10月26日生まれ。東京都出身。2019年、NHK連続テレビ小説「なつぞら」に出演して話題に。ドラマ「#リモラブ~普通の恋は邪道~」、「女子高生の無駄づかい」、映画『あの日のオルガン』など幅広く出演。現在はNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、ドラマ「消しゴムをくれた女子を好きになった」、映画『サバカン』などに出演中。今後も複数の映像作品に出演予定。

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

撮影・文 / 外山文治

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外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

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