“岸井さんはとても映画的な女優”『犬も食わねどチャーリーは笑う』市井昌秀監督×岸井ゆきの インタビュー対談

DOKUSOマガジン編集部


主演に香取慎吾、共演に岸井ゆきのを迎えて実現した市井昌秀監督によるオリジナル最新作『犬も食わねどチャーリーは笑う』。SNS上の「旦那デスノート」への妻の投稿を夫が知ったことがきっかけに勃発する夫婦喧嘩を、コミカルなタッチで描いたブラック・コメディだ。これが3年ぶりの新作となった市井監督と、妻の日和(ひより)を多彩な表情で演じてみせた岸井に本作の魅力を語ってもらった。

岸井さんはとても映画的な女優。──市井昌秀

市井さんが撮りたいものを撮れるよう、誰もが全力を尽くしている現場でした。──岸井ゆきの

『犬も食わねどチャーリーは笑う』誕生の経緯


市井「僕は職人的な監督ではないという自覚があります。自分の本当にパーソナルな部分を映画という手法で表現していきたい。そこでいつも自分自身や、自分の周りのことを見つめ直すのですが、今回は妻との関係に行き着きました。彼女とは結婚して10年以上になりますが、これまでにいろいろな危機を乗り越えてきました。結婚や離婚、夫婦……“夫婦”というワードはもう古いようにも思いますが、こういったものを題材にしたいとプロデューサーに相談したところ、“旦那デスノート”というサイトを教えてもらったんです。

のぞいてみると、世の夫に対する妻たちの辛辣な言葉が溢れていました。でも非常にSNS的というか、多くの人が見ているという前提があるからか、あちこちにユーモアが感じられたんです。これはあくまでも不満を発散するのが目的で、本当にシリアスな夫婦関係にある方は、ここにやってこないんじゃないかと思ったんですよね。そこに感じた“認識のズレ”みたいなものを作品に取り入れられるのではないかと。そうして物語は広がっていきました」


©2022 “犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS

岸井「出演のお話をいただいたのはずいぶん前のことで、その時点で脚本が出来上がっていました。当時の心境を振り返ってみてまず思うのは、“ビックリした!”ということです。市井さんのオリジナル最新作で、しかも香取慎吾さんと夫婦役。“私でいいんですか……?”っていう。とても嬉しいお話ですし、脚本もユーモアが溢れていて面白かった。ぜひ参加させていただきたいと思いましたね。コロナの影響で撮影が2度も延期になったりはしましたが、実現して良かったです」

取慎吾と岸井ゆきの、組み合わせの妙


©2022 “犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS

市井「香取さんと岸井さんの組み合わせが、体格差も含めて面白いだろうなと考えたんです。香取さんに関しては、いつか平凡で素朴な、だらしなさや弱さのある人物を演じていただきたいと思っていました。彼自身も言っていますが、これまで演じてきたのは“キャラモノ”が多かった。裕次郎と日和というごく平凡な夫婦像を描くにあたって、香取さんが裕次郎を演じるイメージに結びつきました。

岸井さんに関しては、かねてよりとても映画的な女優さんだと思っていました。僕の思う映画的というのは、一度見たら忘れられない個性的な見た目ながら、表情一つでいくつもの情報を観客に届けられる人のことです。岸井さんはそんな稀有な存在だと感じていたので、ずっとご一緒したかった。香取さんとの実年齢の差もまったく気になりませんでしたね」


岸井「表情に関しては、私自身が日和のように、ちょっと我慢して笑ったりしちゃうときがあるんです。そういった日常のものというか、素の部分がお芝居に反映されているのかもしれません。夫の裕次郎に対する態度が次第に変化していきますが、二面性などを表現するためのお芝居ではなく、あくまでも日和がそのときどきに感じていることに素直に反応していった結果が映像に収められているのではないかと思います。

香取さんとのやり取りは、どのシーンもとにかく新鮮でした。彼は撮影当日にセリフを入れる方なので(笑)。初めに一度だけ読んだら、あとは撮影当日に必要なシーンのところだけを車の移動時に覚えるそうです。なので、香取さんから飛んでくる言葉は考えられたものや作られたものではない。だからこそ新鮮なんです。それに対して私だけが考え尽くしたような言葉を返したら、作品の世界観にも影響してしまいます。香取さんに引っ張られるようなかたちで、より自然な言葉を発することができました。私にとってはいつもと違うお芝居のやり方なので、香取さんのやり方に乗っかりたい思いもありましたね。結果、得られるものが多かったです」

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市井昌秀
いちいまさひで|映画監督
1976年生まれ。富山県出身。劇団東京乾電池を経て、ENBUゼミナールに入学し映画製作を学ぶ。2004年に制作した長編が多くの映画祭にて受賞し注目を集める。その後の作品も高い評価を受け、13年には初の商業映画『箱入り息子の恋』が公開。モントリオール世界映画祭ワールドシネマ部門に正式出品し、第54回日本映画監督協会新人賞を受賞。ドラマ作品では「十月十日の進化論」でギャラクシー賞奨励賞の他、多数の賞を受賞。直近の映画作品に監督と脚本を務めた草彅剛主演の『台風家族』(19)がある。

岸井ゆきの
きしいゆきの|女優
1992年生まれ。神奈川県出身。2009年に女優デビュー。以降映画、ドラマ、舞台と様々な作品に出演。17年『おじいちゃん、死んじゃったって。』で映画初主演を務め、第39回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞。19年『愛がなんだ』では、第11回TAMA映画祭最優秀新進女優賞ならびに第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を獲得。近作に『やがて海へと届く』『大河への道』『神は見返りを求める』(22)などがある。待機作に第72回ベルリン国際映画祭エンカウンターズ部門正式出品作『ケイコ 目を澄ませて』がある。


©2022 “犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS

『犬も食わねどチャーリーは笑う』
監督・脚本 / 市井昌秀
出演 / 香取慎吾、岸井ゆきの、井之脇海、中田青渚
公開 / 9月23日(金・祝)よりTOHOシネマズ日比谷 他
©2022 “犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS

あらすじ
この物語の主人公、裕次郎と日和は結婚4年目を迎える仲良し夫婦?というのは(もちろん)表向き。鈍感夫にイライラする日和は、積もりに積もった鬱憤を吐き出さなきゃやってらんないわー!と、出会ってしまったのは、SNSの〈旦那デスノート〉。そこには妻たちの恐ろしい本音、旦那たちが見たらゾッとするようなエグ~イ投稿がびっしり書き込まれていた。そしてある日、裕次郎もその存在を知ってしまう!「これって俺のことか?」気になる投稿のペンネームはチャーリー。日和と一緒に飼っているフクロウの名前もチャーリー…ってことは!夫婦ゲンカのゴングの鐘が、いま鳴り響く!!

撮影 / 角戸菜摘 取材・文 / 折田侑駿 スタイリスト / Babymix ヘアメイク / 花村枝美〔MARVEE〕

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