いいことも悪いことも神様が見ている『アヒルと鴨のコインロッカー』【水石亜飛夢の映画ノート page.2】

水石亜飛夢

水石亜飛夢さんが、いま一番気になる映画監督の過去作を鑑賞し、見どころ、印象的なシーン、俳優視点で感じたことなどをお伝えします。真面目なお話から、ちょっとプライベートなことまで!?水石さんの等身大の気持ちが記された映画ノートをお楽しみください。

今回の作品は、中村義洋監督の『アヒルと鴨のコインロッカー』です。

『アヒルと鴨のコインロッカー』
監督 / 中村義洋
出演 / 濱田岳、瑛太、関めぐみ
発売元:アミューズソフト
©2006「アヒルと鴨のコインロッカー」製作委員会

あらすじ
大学入学のため仙台に引っ越してきた椎名は、奇妙な隣人・河崎に出会う。彼は初対面の椎名を本屋襲撃に誘う。標的は一冊の広辞苑。そして2年前に起きた、彼の元カノ・琴美とブータン人留学生・ドルジにまつわる出来事を語りだす。過去の物語と現在の物語が交錯する中、すべてが明らかになった時、椎名が見たおかしくて切ない真実とは…


線の回収が見事!脚本や役者の軽やかさが気持ちいい

この映画との出会いは、俳優デビューしたばかりの10代の頃。「これは観た方がいいよ」と、映画オタクのマネージャーさんからもらったおすすめ作品リストにあった1作です。伏線回収が見事で、どんでん返しがビシッと決まっている作品なので、当時は純粋に「面白い!」という感想を持っていました。

今は、色々な作品を経験して言葉と向き合う機会が増えたことで、劇中のセリフの妙や脚本の秀逸さが、よりわかるようになったと思います。それに、本当に軽やかな脚本で、役者さんもそれを楽しんでやっているんだろうなと感じるので、観ていて気持ちいいんです。「いい映画を観て、いい時間を過ごせたな」と思える作品ですね。


©2006「アヒルと鴨のコインロッカー」製作委員会

石亜飛夢が憧れる男性像

もし演じることができるなら、やってみたいと思うのは、松田龍平さんが演じた役です。松田さんご本人のオーラも相まって、登場シーンの少なさに反して存在感がしっかりとある魅力的なキャラクターだと思います。

僕は、ふらふらしてるように振る舞っているけれど、実は内面が熱い男の人が好きで、漫画なら『銀魂』の銀さん(坂田銀時)のような人、身近な人でいうと僕の兄がそういうタイプなんです。格好つけていなくて、ヘラヘラしてるように見えるけれど、中身はめちゃくちゃ真面目で努力をしている、そんな姿に憧れます。松田さんのような色気は僕には出せないな…と思うのですが、いつかそういう芝居もできるようになれたらと思います。


近にいる人で一番ミステリアスな存在は…

濱田岳さんが演じる主人公の椎名が、隣人の正体を知ったことをきっかけにストーリーが急展開しますが、身近な人で一番ミステリアスな存在はマネージャーさんです(笑)。10年ほど一緒にお仕事をさせていただいているんですが、考えていることとか、熱くなるポイントとか、いまだに分からないところがいっぱいあるし、性格が本当に真逆なんです。

僕は一歩を踏み出すまでに色々と考えてから慎重に行動に移すタイプですが、マネージャーさんは即行動、即発言、即実行の人。僕が「うーん…」となっていると、「もっと気持ちを出した方がいいよ。俺みたいに」ってバンと背中を押してくれるし、マネージャーさんが急にアクセルを踏んだ時は「ちょっと待ってください!大丈夫ですか!?」と僕がブレーキをかけることもあるので、それはそれでいいバランスなのではと思います。変に冷めている部分が自分にあってよかったなって思いますし、めちゃくちゃ熱い方がそばにいてくださってよかったです。


©2006「アヒルと鴨のコインロッカー」製作委員会

場を通して変化した俳優としてのスタンス

かくいう僕も、デビュー当時からミステリアスな役とか影のあるような役をいただくことが多く、そんなイメージをもたれることがあります。全然自覚はなくて「超一般的じゃん!」って思っているんですけど…。考えたら、極度の心配性だし、周りからどう見られているかを気にする性格なので、ぐるぐると頭の中で考えている様子が「なにか分からないけれど、難しいことを考えていそう」と見えるのかもしれないですが。

でも、「キラメイジャー」の現場を経て、肩の力を抜いてフラットな気持ちで現場にいられるようになってきたんです。ほぼ毎日同じメンバーで過ごす一体感の強い現場なので、もちろん仕事のスイッチは入れているけれど、ずっと張り詰めている方が難しいし、必然的に心を許しあうような関係になって。せっかくの1年間という長い現場だし、楽しく自由に、自分らしくやろうかなと思ったんです。そういうスタンスで挑んでみた僕のことを好きだと言ってくれる人がこんなにもいるんだ、と実感したことが変化の一番大きなきっかけです。


「名作」と呼ばれる所以

この映画は伊坂幸太郎さんの原作をリスペクトして、芝居と演出と音楽のパワーで精巧に作られているからこそ、多くの人に支持されて名作と言われているんだと思います。でも、誤解を恐れずに言うと、今の時代に公開されても多分跳ねないような気がするんです。映画好きとか映画関係者の間では話題になるけれど、一般層にまで届く派手さがないと言いますか…。15秒とか30秒の予告でいかにインパクトを残すかとか、TikTokを活用した宣伝をするとか、そういう今どきの感じとはマッチしないと思うし。

でも、そのノスタルジーも素敵なんですよね。ポスターのテイストにも当時の空気を感じます。今は検索すればネタバレをすぐ読めてしまうけれど、ポスターを見て気になったら劇場に行く、というのが当たり前の時代だったんじゃないかな。

ストーリーを楽しみたい、どんでん返しの伏線回収の映画が好き!という人にはもちろんおすすめですが、「いいことも悪いことも神様が見ていて、自分に返ってくる」というテーマが描かれているので、前に進めない時や、うまくいかないと感じている時に観たら、勇気をもらえる作品だと思います!


©2006「アヒルと鴨のコインロッカー」製作委員会

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⇒DOKUSOマガジン9月号(vol.12)、9月5日発行!表紙・巻頭は『犬も食わねどチャーリーは笑う』市井昌秀監督×岸井ゆきの

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撮影 / 豊田和志 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 牧口友紀(TOKYO LOGIC) 文 / 大谷和美
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水石亜飛夢 俳優

1996年1月1日、神奈川県生まれ。ドラマ「あなたの番です。」「相棒17」、映画『青夏』映画『センセイ君主』など話題作に出演。「魔進戦隊キラメイジャー」では押切時雨役/キラメイブルーを務めた。近作に『鋼の錬金術師 完結編』がある。

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