静かで不穏な空気が漂う作品が好きなんです『アンダー・ユア・ベッド』【水石亜飛夢の映画ノート page.1】

水石亜飛夢

水石亜飛夢さんが、いま一番気になる映画監督の過去作を鑑賞し、見どころ、印象的なシーン、俳優視点で感じたことなどをお伝えします。真面目なお話から、ちょっとプライベートなことまで!?水石さんの等身大の気持ちが記された映画ノートをお楽しみください。

今回の作品は、安里麻里監督の『アンダー・ユア・ベッド』です。

©2019映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会

『アンダー・ユア・ベッド』
監督・脚本 / 安里麻里
出演 / 高良健吾、西川可奈子、安部賢一、三河悠冴、三宅亮輔

DVD&Blu-ray好評発売中
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
©2019映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会

あらすじ
11年前、たった一度だけ「三井くん」と呼んでくれた佐々木千尋のことを思い出す。もう一度名前を呼んでもらいたい俺は彼女を見つけ、近所に引っ越し全てを覗き見ることにした。だが、彼女は別人に変わり果てていた…

一印象は「ドンピシャ好きな作風」

公開された当時に、チラシ配りをされていた安里麻里監督に偶然お会いして「観に行きます!」とお伝えしたのですが、「キラメイジャー」の撮影が始まったこともあり観に行けず…。その後、DVDで拝見しました。

僕は静かで不穏な空気が漂っている作品が好きなんですが、この作品はドンピシャで好きな作風。観終わった後「よかったなぁ」という余韻を感じながら、できることなら劇場で観たかったなぁという気持ちになりました。題材的にもシーン的にもデリケートだけど、そこに踏み込む力や思い切りがすごいですよね。繊細な感覚をもつ安里監督だからこそ、この絶妙なバランスの作品が生まれたのではないでしょうか。

カメラワークが特徴的というのもあるけれど、役者さん達の感情がフル稼働していて、音楽もない静かなシーンが続いても、気が逸れることなく釘付けになってしまう。高良健吾さんのモノローグも、淡々としていながら、ふつふつとしていて好きなんです。安里監督からのコメントに現場でのお話もありましたが、現場の本気度合いがこちらに伝わったからこそ、引き込まれるほどの熱量を感じたんだと改めて思いました。エネルギーを切らさずに、本作のような静かな物語を作るのは難しいことだと思うので、俳優のみなさんの素晴らしさが詰まっていますよね。以前ご一緒した三河悠冴さんは珍しく悲しい役を演じていたけど、俳優同士という視点で「面白いな」とも思いました。

©2019映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会

人公・三井に共感する恋愛観

僕は今、こういう業界にいるから必然的に人の目には入るけれども、中学生くらいまでは目立つ存在じゃなかったんです。学生って小さいコミュニティではあるけれど、リレーのアンカーや団長、学級委員とか活躍して注目される存在っているじゃないですか。僕はそういう存在になろうとも思わず、なるべく目立たないようにしている側の人間で、「誰か自分のことを必要としているか…?」くらいの感じでした。だから、本作を通して「自分が知らないところで、自分を見てくれている人っているんだよな」と、三井の気持ちに共感する部分は多かったです。

あと、ひとりの人を思いつづけるというところでは、思い当たることがあって…(笑)。小6から中3まで、ずっと同じ子のことが好きだったんです。確か、小6のときだけ同じクラスだったんですけど、偶然その子が自分の家の目の前に引っ越してきて。「こんなのもう運命でしょ!」って思っちゃいました。どうしたって帰り道が同じになるので、よく前を歩いているのを見ながら、「追い越したら挨拶しなきゃいけないよな。でもそんな勇気ないしな」って、追い越さないスピードで歩いて…(笑)。中学を卒業して、その子と久しぶりに会う機会があったので、思い切ってデートに誘ったんです。だから、今思えば、三井が千尋をお茶に誘ったくらいの勇気は僕も出せたのかなと思います。お付き合いに進展するようなことはなかったですが(笑)。

き声の「三井くん」は最初の衝撃

印象的なシーンをひとつに決めるのはなかなか大変ですけど、最初に大学の教室で千尋が発する「三井くん」という囁き声はすごく頭の中に残っています。一発目の衝撃というか。誰しもにあるものかもしれませんが、あの言葉や千尋の存在は三井にとって救いでもあったし、ある種の呪いでもあるなと。

名前を呼ばれるってやっぱり特別なことだと思うんです。僕は名前のインパクトが強いからか、「芸名じゃなく本名?」って聞かれることも多いし、愛称も特にないです。けれど、大好きな兄につけてもらった名前を呼んでもらえるのは、うれしいですね。

©2019映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会

じてみたいのは葛藤を抱える役

バイオレンスな役は他の作品でやったし、DV男もやったことがあるんですが、DVってすごく大変…(笑)。自分の心をフル稼働することができるのは同年代の役だと思うので、もしまた安里監督とご一緒できるのなら、その時の自分の年齢に近い人物で、何かに悩んで葛藤し、結果的に前に進める役を演じてみたいです。あれから数年で僕もレベルアップしたと思うので、また現場でお会いできるように精進します!

里麻里監督からのコメント

人を想う事の究極の形――ただ愛してる。彼女に触れられなくても。

『アンダー・ユア・ベッド』はコロナ禍直前の2019年にテアトル新宿ほかにて公開した。孤独な人間の話をやりたかった。ヘビーな内容を、ごまかさずに正面から描いた。批判は覚悟の上のR18作品だったが、女性観客に火がつき連日満員に。人の闇の中に見る純真さを感じ取ってくれたのだと思う。

撮影現場はスタッフ、キャストの熱量が半端なかった。誰ひとり腰のひけている者はいなかった。高良健吾くん、西川可奈子さん、安部賢一さんとは「脚本から外れていい。その時に沸いた感情で芝居しよう」と決め、撮影時はテスト無くカメラを回していった。現場は物凄い緊張感。スタッフは息をつめ、瞬きもせず夢中だった。三井が自分にスタンガンを撃つのは、高良くんがやった事で、脚本には無いもの。登場人物達が生きているように自ずと生まれた空気が写っている。

そして闇を抜けた先には、だからこそ得られる強烈な救いが待っている。水石くんにはどのように届くだろうか。ぜひ多くの人に堪能して頂きたい。

安里麻里
あさとまり|映画監督
映画美学校・東京藝術大学にて黒沢清、北野武らに学ぶ。2013年『バイロケーション』ウディネ映画祭出品。2014年『劇場版 零 ゼロ』ストックホルム国際映画祭出品。2017年『氷菓』プチョン国際ファンタスティック映画祭出品。2019年『アンダーユアベッド』ロンドンイーストアジア映画祭出品。2021年ドラマ「ただ離婚してないだけ」は、テレビの規制限界に挑戦し話題に。

今回の記事を含む、ミニシアター限定のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」8月号についてはこちら。
⇒DOKUSOマガジン8月号(vol.11)、8月5日発行!表紙・巻頭は『さかなのこ』沖田修一監督×のん!


お近くに配布劇場が無いという方は「DOKUSOマガジン定期購読のご案内」をご覧ください。

撮影 / 豊田和志 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 牧口友紀(TOKYO LOGIC) 文 / 大谷和美
衣装 / シャツ ¥33000 meagratia、デニムパンツ ¥26400 FACTOTUM <問い合わせ先>Sian PR 03-6662-5525

水石亜飛夢 俳優

1996年1月1日、神奈川県生まれ。ドラマ「あなたの番です。」「相棒17」、映画『青夏』映画『センセイ君主』など話題作に出演。「魔進戦隊キラメイジャー」では押切時雨役/キラメイブルーを務めた。近作に『鋼の錬金術師 完結編』がある。

この連載の人気記事 すべて見る
今読まれてます RANKING