『マイライフ、ママライフ』『12ヶ月のカイ』上映直前!亀山睦実監督×DOKUSO映画館たまい支配人スペシャル対談 2021.9.9
第14回田辺・弁慶映画祭で観客賞を受賞した『マイライフ、ママライフ』、米国アリゾナ州最大級のフェニックス映画祭・国際ホラー&SF映画祭のSFコンペ部門にて最高賞を受賞した『12ヶ月のカイ』が9月14日(火)より東京・テアトル新宿にて公開。
2作の監督・脚本を務めた亀山睦実監督と、DOKUSO映画館たまい支配人の対談が実現。実は同い年の2人。大学時代にニアミスしていたかも?というエピソードから、2作の製作に至る経緯や想いをゆっくりと話していきました。
亀山さん、日芸(日本大学芸術学部)ご出身ですよね?僕は名古屋の大学だったのですが、高校時代の友人が日芸でして、就活が終わった4年生のときに日芸で一緒に映画を撮らせてもらってました。東京にマンスリーマンションを借りて2ヶ月ほど住みながら。
え、そうなんですか!
はい、なぜか監督・脚本をやらせもらうことになって、文化祭?みたいなとこで上映させていただきました。なのできっとどこかですれ違っていたと思います。(笑)
それは確実にキャンパス内でニアミスしてますね。(笑)
そうですよね。(笑)
さて、今日のインタビューにあたって、『マイライフ、ママライフ』『12ヶ月のカイ』をひと足お先に拝見しました。2作とも共通して「結婚」や「出産」がテーマにありますよね。DOKUSO映画館で配信させてもらっている亀山監督の3作品は「恋愛」がメインテーマだったので、長編でいうと2016年製作の『ゆきおんなの夏』から今回の2作を撮る間に、亀山さんになにか心境の変化があったのかなと思いながら観ていました。
『ゆきおんなの夏』を作った時は、そこまで描くような尺も脳ミソもなかったんですけど、恋愛の先に「結婚」や「出産」があるという認識はずっとあったので、だから自然と『マイライフ、ママライフ』や『12ヶ月のカイ』という話につながったのかなと思います。
その「結婚」「出産」というものをかなりリアルに描いてる『マイライフ、ママライフ』と、SFの物語として描いている『12ヶ月のカイ』。それぞれ作るきっかけみたいなものがあったんですか?
『マイライフ、ママライフ』の方は、過去に会社の仕事でお付き合いのあったプロデューサーさんからお声がけをいただいたのがきっかけです。でも、人からお金をいただいていきなり長編作品を撮るのが少し怖かったので、まずリハビリみたいな感じで『12ヶ月のカイ』を撮りはじめたんですね。
なるほど、『12ヶ月のカイ』はリハビリとしてはじめたんですね。
今の制作会社ノアドに入って、仕事でCMのディレクションなどはしていましたけど、4年間くらい映画には触れていなかったので。ガッツリ長いお話の演出をするのはだいぶ久しぶりで、練習したいなと。
『12ヶ月のカイ』は観る前に想像していたストーリーから「え、こっちに進むの!?」みたいな驚きがありました。
実は結末を全然考えていなかったんですよ。最初に主人公のキョウカ(中垣内彩加)がヒューマノイドのカイ(工藤孝生)を買って、だんだん持ち主のキョウカのことを覚えていって恋愛的な雰囲気に…、くらいまではシナリオを書いていました。そのあとは季節ごとに少しずつ撮っていったので、主演の俳優二人と「この後にキョウカとカイはどうなると思う?」という話をしながら結末を決めていきました。
すごい面白い作り方していますね。
私も、いま思うとよくそれで話が成立したなと思います。
今作では、キョウカがカイを購入してからの12ヶ月間を1ヶ月ごとに区切って、変わりゆく2人の関係性を見せていく構成になっています。本当に作中の時間軸に添って、シーンを1ヶ月ごとに順番に撮っていったということですか?
そうですね、ほぼ同じ時間軸で、だいたい10ヶ月くらいかけて撮っていきました。
では、たとえば「6ヶ月目」のシーンを撮った時点では、「7ヶ月目」のシーンでどうなるということはあまり考えていなかったんですか?
はい。しかも、出演する俳優には出番がある月の台本しか渡していないので、自分たちが出演していない間にキョウカとカイに何が起こったのかは知らないんですよ。
ええええ(笑)
だから台本をもらってびっくりしていたと思います。普通にメールでペッと送りましたけど(笑)
カイを演出するタイミングで、俳優さんと「ヒューマノイドとは?」という話になったと思いますが、そのあたりはどういう風に演出したり、伝えていきましたか?
「私がイメージするパーソナル・ケア・ヒューマノイドはこうです!」という映像作品があったので、それを観てくださいとお伝えしました。『ウエストワールド』というアメリカのドラマです。お芝居のディティール、カイのヒューマノイドとしての動き方とか、処理が追いつかなくて脳ミソが固まっている感じとかは、『ウエストワールド』でホストと言われているアンドロイドたちの動きを参考にしていました。
情報処理をしているときにゆっくり瞬きするとかですね。
持ち主のことを覚えていくにつれて、ヒューマノイドであるカイの話し方もだんだんナチュラルになっていくんですけど、一度撮影してから数か月経ってまた撮るので、「あれ?前回どんな話し方でしたっけ?」みたいな調整は私がコントロールしながらやっていました。
カイが話す内容も、どこまで人間に近づいているかを表現するのが大事ですよね。最初のうちは初期設定のテンプレートな文章から始まって、ここまで話すんだ、というレベルまで行きますが、あのあたりのセリフ作りで苦労した点はありますか?
セリフはわりと人間っぽい会話にしているんですけど、ヒューマノイドを演出するために、助詞とか細かい言葉の使い方のルールを決めていました。それを本当に台本通りに読んでもらっていたので、カイ役の工藤くんは大変だったと思います。
それは大変ですね…。工藤さんは本当に綺麗な顔をされているので、ヒューマノイドっぽいですよね。
そうですね。主演のお二人はオーディションで選ばせていただきました。その際に機械側に寄せてくれた、私のイメージを持ってきてくれたのが工藤くんでした。キョウカが座っているカイにキスをするシーンがあるんですけど、この感じがもう人形にしかみえなくて、現場でもすごいね!ってなりました。
人形感ありますよね。本当に中性的な感じですし。
ちょっと発展して、LINE NEWS VISONでやられた『ソムニウム』があるじゃないですか、あれはどういった経緯で始まったんですか?
『カイ』は作り終えているタイミングでした。会社で別の企画をLINE NEWS VISIONさんでやっていて、その企画が好評で他のディレクターでもやってみましょうと。そこで『カイ』の過去の話である、ヒューマノイドを開発する話を提案したらOKが出ました。
海外ドラマを見ているみたいですごく面白かったです。ただ、確実に伏線を残して終わっているじゃないかと。だいぶ謎を残していますよね。
マーベル作品みたいなちょっとズルいことがしたかったんです。
主役の塩野瑛久さんはどういう経由でキャスティングされたのですか?
塩野さんは、2019年公開の『HiGH&LOW THE WORST』で、幹部以外は全員スキンヘッドのヤバい学校・鳳仙学園の四天王の一人を演じられていました。劇場で見た時にひとりだけ様子のおかしい人がいると思って、その役名の小田島という名前はずっと覚えていたんです。そして今回『ソムニウム』の主演を考えていた時に、そういえばあの鳳仙学園の人、と。
演技だと思うんですけど、塩野さんは瞬きを全然しないから本当に非現実感がすごくて。作中で彼がヒューマノイドの真似をするときに、本当に瞬きしないし顔も体も動かないので、松田優作さんかと思いました。
塩野さんは本当にお芝居が上手いです。ヒューマノイド試作機との1対1の会話シーンでは、塩野さんは人間なので感情豊かに演じ、ヒューマノイドはその演技を受けない。普段のお芝居からすると矛盾ですよね。そのすごい空間というか段取りの二人の迫力が一番グッときましたね。
あのシーン、ほぼワンカットでやっていますよね。
途中で編集的には切っているんですけど、撮影時はワンカットで7分間くらいずっと回していました。スマホ用の縦型動画であんなの見たことないですよね。
お二人がちゃんとムードを出しているので、塩野さんの空白の時間というか、セリフがない時間が結構多いですけど全然苦にならなかったです。
どうしてそこで黙っているかが見てわかるので。
非常に面白かったです。
『ソム二ウム』と『12か月のカイ』の間の話を作ってほしいです。
そうですね、近々つくりたいですね。
では、『マイライフ、ママライフ』のお話をお聞きしたいと思います。
本題はこっちでした。(笑)
こちらはプロデューサーさんがいらっしゃるということでしたが、どれくらいのお題と言いますか、オーダーがあったのでしょうか。それとも亀山さん的にママの働き方に対して問題意識なり描きたいことがあったのか、どちらだったのでしょうか。
後者の方ですね。友人が結婚したり、子どもが生まれたりする中で、彼女たちのSNSに日々の愚痴がいろいろ書かれることが増えてきました。そんな時にちょうど女性の働き方や結婚、妊娠、出産の悩みが記事になっているのを見かけて、社会問題としてニュースで取り上げられていることが私の身近でもリアルに起こっていることが衝撃的だったんです。
なので、自分と同じ世代、平成世代の育児の当事者たちが思っていることをそのまま話にしようと思って書きました。
僕も3歳と1歳の子どもがいるので身につまされる話だなと。
今回、子どもがいないバリバリ働く女性と、子どもがいる時短勤務の女性を対称的に描いていて、あるサービスによって二人が出会うというお話ですが、この両側から描こうと思ったのはどうしてでしょうか。
どちらの話も撮りたいなとシンプルに思いました。自分の本当にやりたいことを押し殺して、子ども優先で仕事をし、ワンオペで育児家事をするという世界から、もう少しやりたいこともやっていいんじゃないかと、自分を解きほぐしてくれるような存在が外側に必要なんじゃないかと思ったんですよね。職場も違う、家族の環境も違う、そんな外側にいる人とどうにか出会わせたかった。そんなときに、たまたま「家族留学」というサービスを見つけて、取り入れさせていただきました。
作中にでてくる「manma(マンマ)」は実在するサービスなんですよね。 制作するにあたって、実際の共働き夫婦にも取材されたんですか?
そうですね。ママさんも、これからお子さんを持つ方もそれぞれ取材しています。さらにママさんは、いま現役で小さい子を育てている方だけではなくて、子どもが小学生くらいになってある程度手が離れてきた方にも当時の話としてどうだったかをお聞きしました。
なるほど。企画を考えたタイミングから、作品を描いていく中で、新たな気づきというか発見はありましたか?
私がイメージしていた結婚、出産、子育てと、現実とにだいぶ距離があって、まだ社会やシステムがぜんぜん追いついていなかったんだなという衝撃がありました。でも、この作品を観ていただければ、こうすればもう少し日本も変われるかも…というのが分かっていただけるはずです。『マイライフ、ママライフ』的な、ちょっと教科書っぽいですけどこういう作品が増えたら、刺激をうけて世の中を変えてくれるような人たちが出てきてくれるんじゃないかと思っています。
ちょっと視点を変えて、亀山さん自身のことをお聞きしたいと思うんですけど、どういうきっかけで映画監督になろうと思ったんですか?
中学生のときに『ハリーポッター』、『踊る大捜査線』のメイキングを見て、映画監督になりたいと思ったのがきっかけです。
メイキングを見て?
メイキング映像を見て、この人たち楽しそうと思ったんです。 あの時は、どんな仕事、役割りがあるとか細かいことは分からなかったので、監督になったら入れるだろうと。(笑)
なるほどです。(笑) 初めて映画というか映像作品を作ったのはいつですか?
ちゃんと映像にしたのは高校生ですね。放送部員で、文化祭でラジオドラマをやっていたんですよ。そのラジオドラマの予告編を映像で撮るところから始まりました。なので、予告編作りが一番最初ですね。
そこから日芸に入ろうという、高校生からするとだいぶ将来の選択肢を狭める大きな決断だと思いますが、何かきっかけがあったんですか?
部活が好きで、そのまま部活でやっていることを大学でやりたいと思っていたんです。もともとは専門学校に行こうとしていたんですけど、日大付属の友達から大学でもそういう勉強ができるところがあるよと聞いて決めました。
ありがとうございます。では今後、こういう作品を撮っていきたい、こういう監督になりたいなどの目標はありますか?
今回の作品はヒューマンとSFじゃないですか。ジャンルは違うけれど、どちらも「命」の話です。今後も「命」にフォーカスした話にはしたいと思っています。
あと、いま興味があるのは「選挙」の話。伊丹十三さんの『お葬式』のような感じで、ドタバタ喜劇にしたら面白いんじゃないかなと思っています。真面目にくだらなくして、且つ、選挙についても分かるみたいな。選挙の問題とか、投票する側が抱えている疑問や悩みも『マイライフ、ママライフ』と同じように作品の中で伝えられたらいいなと思います。
それと、『ソムニウム』のような人間の脳ミソが難しいことを考えまくって謎のアドレナリンが出ちゃうような映画もやりたいですよね。学者さんとお話をしながら映画を作りたいと思っています。
『TENET』や『インターステラ―』のクリストファー・ノーラン監督は、毎回ちゃんと学者や専門の方とお話をしながらシナリオを作っていらっしゃるんですよね。物語にちゃんと根拠が欲しいので。フィクションであれノンフィクションであれ、そこを基にして考えが広がるようなエッセンスが欲しいんですよね。
いいですね。では最後に、2作品を見ていただく方にメッセージをお願いします。
今回の田辺・弁慶映画祭セレクション2021では、上映時間が夜の遅い時間帯なので、実際の子育て中のお母さんたちは来られない時間かもしれません。ですが、なるべく若い方も、子育てが終わった方も、ぜひ『マイライフ、ママライフ』観ていただいて、明日のために何かできることがないか、作品をきっかけに何かを見つけていただけたら嬉しいなと思います。
『12ヶ月のカイ』は、恋愛映画の皮を被ったSF映画なのか、SF映画の皮を被ったヒューマンドラマなのか、ある意味、ちゃんとみなさんの期待を裏切る作品です。見ていて前頭葉が痛い作品だと思いますが、見たあとは脳ミソが喜んでいるはずです。それは自信を持って言えます!是非、見てください!!
LINE NEWS VISIONの『ソムニウム』は、『12ヶ月のカイ』を観る前と観た後どちらがいいですか?
どちらでも大丈夫です!『スター・ウォーズ』を1から見るか、4から見るかという感じなので、どちらでも。(笑)
塩野さんの美しい顔を早く観たいぞ、という方は『ソムニウム』から見ていただいて。キョウカとカイのゆくえが気になる方は『12ヶ月のカイ』から観ていただいてという感じですね。
映画『マイライフ、ママライフ』は東京・テアトル新宿にて2021年9月14・16日と、大阪・シネ・リーブル梅田にて9月29日、『12ヵ月のカイ』はテアトル新宿にて2021年9月15日に上映。 詳しくは、「田辺・弁慶映画祭セレクション2021」劇場特設ページをチェック!
DOKUSO映画館の劇場支配人。たまに映画プロデューサー。今年こそ、映画と読書と仕事以外の趣味をつくりたい。