『隼』 貧乏夫婦に訪れる愛の試練

ミヤザキタケル

『箱入り息子の恋』『ハルチカ』『台風家族』などで知られる市井昌秀監督の初期作品。エアコンを求めたが故に関係性が変化していく貧乏夫婦の姿を描いた、粗削りながらも力強いエネルギーに満ち溢れた一本。

誰もが一度は考える。愛があれば幸せなのか、金があれば幸せなのか。愛があっても金がなければ不幸せなのか、金があっても愛がなければ不幸せなのか。どちらも潤沢にあれば全て満たされ、何もかも滞りなく上手くいくものなのか。無論、何に重きを置くかは人それぞれに異なるし、幸福の定義もまた人それぞれに異なるもの。

その思考や価値観が近しい人であればこそ、人生を共にし、互いにとって最良の幸福を模索していくことができる。エアコンなしの貧乏生活を送る劇中の夫婦に関しても、贅沢はできずとも充実した時間を得られていたのは、見据えているものが近しかったからに他ならない。だが、エアコンの存在がその均衡を崩してしまう。

人は変わる。本質的な人間性は変わらずとも、何に重きを置くかは、時代の風潮やその時々の出来事によって変化する。そうして、エアコンがもたらした「金」への執着が、二人の関係性を変えていく。そこで終わりを迎え、価値観の合う別の人を探すのか、ひび割れた関係性の中でももがき続け、新たな着地点を探すのか。二人が選ぶ答えを是非その目で見届けて欲しい。蛭子能収さんの名演も必見!

©市井昌秀

ミヤザキタケル 映画アドバイザー

WOWOW、sweetでの連載のほか、各種メディアで映画を紹介。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』がバイブル。

この連載の人気記事 すべて見る
今読まれてます RANKING