寛一郎「彼の一つひとつの決断には共鳴しました」 『シサㇺ』インタビュー 2024.9.20
寛一郎が主演を務めた映画『シサㇺ』は、アイヌと和人(シサㇺ)の歴史を描いた人間ドラマだ。江戸時代前期の“蝦夷地”を舞台に、ひとりの武家の若者がアイヌの人々や文化と出会い、しだいに変わっていく姿が収められている。アイヌ文化と出会う主人公・孝二郎を演じた寛一郎は、本作との関係性に運命めいたものを感じたのだという。そんな彼に話を聞いた。
彼の一つひとつの決断に共鳴しました
『シサㇺ』©映画「シサㇺ」製作委員会
──本作のオファーが来たときの心境についてお聞かせください。
「アイヌ文化を丁寧に取り上げる作品を生み出そうという試みに、僕としては率直に前のめりの姿勢で参加したいと思いました。というのも、小学生のときに文化交流の一環で、アイヌの集落を訪れて寝泊まりさせていただいた経験があるんです。それから10数年が経って、こうしてアイヌ文化を描く作品のお話が来た。もっとアイヌのことを知りたいと思っていたところでもありましたから、特別なご縁を感じましたね」
──アイヌの暮らしというものが、ある種の原体験としてあったのですね。
「そうですね。まだ幼い頃の体験だったからこそ、あそこで過ごした時間は僕の中に色濃く残っています。アイヌの人々が迫害されている事実があることを、あの当時の僕はきちんと理解できていたわけではなかったはずです。でも子どもたちと遊びながら、幼いながらに不思議な違和感を抱いたのを覚えています。東京生まれ東京育ちの僕も一緒になって、川で洗い物をしたり、トイレも野外でしたり。その生活様式にカルチャーショックを受けたいっぽうで、大自然と共生している感覚になっていったんです。あの感覚は忘れられません。『シサㇺ』という作品との出会いに運命めいたものを感じましたし、“僕がやらなくちゃ”と強く思いました」
──脚本の印象はいかがでしたか?
「これは江戸時代前期を舞台にしたお話ですが、現代にも通じるテーマ性を持った作品です。歴史を描いた作品は、時代考証を徹底すればするほど、今日の価値観からズレてしまうものがあると僕は思っています。なので必然的に、こういった多くの観客の方々に届けられる時代劇というのは、今日の価値観をベースにつくられるものだと感じています。史実を大切に扱いながら、登場人物たちの心の動きは今日的な価値観で描かれている。生まれ育った松前藩とアイヌ文化に引き裂かれる主人公・孝二郎が最後に下す決断も、僕はいいなと思いました」
──孝二郎というキャラクターにはどんな印象を抱きましたか?
「彼の行動とともに物語は進んでいきますから、やはり彼こそがもっとも今日的な価値観で描かれているキャラクターだと思いました。兄のことを尊敬しながらも、コンプレックスを感じている。そんな兄が殺されて、孝二郎は復讐を誓います。でもアイヌの人々と触れ合ううちに自分自身の矛盾に気がつき、世の中の不条理性にも気がついていく。孝二郎のこの変化はとても理解できますし、彼の一つひとつの決断には共鳴しました」
『シサㇺ』
PG12
監督 / 中尾浩之
脚本 / 尾崎将也
出演 / 寛一郎、三浦貴大、和田正人、坂東龍汰、平野貴大、サヘル・ローズ、藤本隆宏、古川琴音、山西惇、佐々木ゆか、要潤、富田靖子、緒形直人
公開 / TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開中
©映画「シサㇺ」製作委員会
江戸時代前期。現在の北海道にあたる地域を領有する、松前藩士の高坂孝二郎(寛一郎)は、兄の栄之助(三浦貴大)とともにアイヌとの交易で得た物品を他藩に売ることを生業としていた。父が亡くなって1年。孝二郎は兄とともに交易の旅で初めて蝦夷地に足を踏み入れる。しかしある晩、使用人の善助(和田正人)の不審な行動を目撃した栄之助が、善助に殺害される。敵討ちを誓う孝二郎は、善助を追って森の奥深くへと向かうが、その頃、蝦夷地では和人に対する反発と蜂起の動きが高まっていた……。
寛一郎
かんいちろう|俳優
1996 年8月16日生まれ、東京都出身。2017年に俳優デビュー。同年に公開された映画『ナミヤ 雑貨店の奇蹟』で、第27回日本映画批評家大賞 新人男優賞を受賞。2023年には初舞台となる『カスパー』で主演を務めた。近年の主な出演作に、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13 人』、映画『月の満ち欠け』、『せかいのおきく』、『首』などがある。出演する映画『ナミビアの砂漠』が9月6日、『グランメゾン・パリ』が2024年冬に公開、主演を務める米・スカイバウンド×フジテレビ共同制作ドラマ『HEART ATTACK』が2024年秋以降配信予定。
撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿 スタイリスト/ 坂上真一 (白山事務所) ヘアメイク/ AMANO
今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」9月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン9月号(vol.33)、9月5日発行!表紙・巻頭は菅田将暉、センターインタビューは寛一郎!
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