毎熊克哉×松居大悟監督 対談前編ー『不死身ラヴァーズ』で大事にした感情

毎熊克哉

映画のフォーマットでやる必然性がどの作品にも共通してあるのを感じます──毎熊克哉

描く価値がないとされているような時間や個人の感情に光を当てたい──松居大悟監督

毎熊「『不死身ラヴァーズ』の松居大悟監督をゲストにお招きしています。これまでいろんな監督とお話ししてきましたが、今回はどこを入口にしようかすごく迷いました。というのも、松居さんはキャリアが多彩なんですよね。監督する映画のジャンルも幅広いし、ドラマも撮れば演劇もつくる。それに最近だと『PERFECT DAYS』(2023年)に出演されていたりもします。この対談ではそんな松居さんの魅力の一端に触れられたらなと。最新作はどんな経緯で誕生したのですか?」

『不死身ラヴァーズ』©2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社

松居「商業デビュー作である『アフロ田中』(2012年)の次に撮りたいと考えていたのが『不死身ラヴァーズ』です。ただ、映画の企画開発をするなかで、さまざまな事情から行き詰まってしまうことが多々あって。それに、こちらが提案するものではない場合、求められるのは似た系統のものが多いんですよ。たとえば僕の場合、さえない男が奮闘するコメディとか。そこに縛られたくない思いが強くあります。それでどうにかジャンルに捉われないように制作してきて、ラブストーリーにも挑むようになった。そんな流れを経て、いまだなと。映画化を希望してから10年以上が経っているので、原作に対する気持ちは変わらないものの、僕自身は変化しています。そのあたりも反映させられたらなと」

毎熊「やっぱりベストなタイミングというのがあるんでしょうね。僕は年齢を重ねるにつれ、いろんなことに折り合いをつけられるようになったし、逆にいまだからこそあきらめられないものが明確にあります。20代のときと30代後半になったいまとでは、言語化できるものが圧倒的に違いますしね。それに、特定のイメージに縛られたくないという気持ちは、僕も役者としてすごく分かります。松居さんは物語をつくるうえで、もっとも大切にしているのはどんなところでしょう?」

松居「描く価値がないとされているような時間や個人の感情に光を当てたいと思っています。主宰しているゴジゲンという劇団でつくる演劇作品もそうで、これはずっと変わりません。アーティストが活躍する姿よりも、そのファンたちにこそ焦点を当てたい。そこに熱狂的な何かがあるはずですから。一緒に演劇をやっていた友達のことを基に演劇をつくり、のちに映画化した『くれなずめ』(2021年)は、友人の結婚式で余興を披露しようと再会した男たちの話です。あれはテレビドラマではやれない気がします。大きな物語を扱うのもいいけれど、僕としては小さな出来事の中にある切実さを掬い取りたいんです」

毎熊「テレビではなく、映画のフォーマットでやる必然性がどの作品にも共通してあるのを感じます。『不死身ラヴァーズ』に大きな仕掛けが施してあるように、『くれなずめ』にも特別な仕掛けがありますが、それは物語の後半であっさりと明かされます。つまり、大きな仕掛けが動くときほど劇的なシーンにはなっていない印象があります。それはあくまでも仕掛けに過ぎず、本当に大切なことは別にある。これも松居さんの作品に共通していることだったりするのかなと」

松居「『不死身ラヴァーズ』の主人公の生きる原動力になっているのは“好き”という感情なので、この感情そのものを描くことが何よりも重要なんです。あらゆるものが複雑化して多様化しているこの時代において、まずこの感情を肯定したい。10年前の僕だったら彼女の姿を捉えるのにがむしゃらになって向かっていたかもしれないけれど、いまは違う。盲目的に突っ走っていく女の子の姿は痛々しく映るかもしれませんが、撮影や編集の仕方によっては緊張感あるものになるはず。でも主演の見上愛さんのお芝居を見たとき、ただこの人を追いかけてさえいればいいんだと思いました」

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。出演するドラマ『好きなオトコと別れたい』が毎週水曜にテレビ東京系にて放送、U-NEXTにて配信中。

松居大悟
まついだいご|映画監督
1985年11月2日生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。2012年、『アフロ田中』で長編映画初監督。『バイプレイヤーズ』(テレビ東京)シリーズを手掛けるほか、J-WAVE「RICOH JUMP OVER」ではナビゲーターも務める。映画『ちょっと思い出しただけ』がファンタジア国際映画祭2022で部門最高賞となる批評家協会賞、第34回東京国際映画際にて観客賞とスペシャルメンションを受賞。最新監督作『不死身ラヴァーズ』が5月10日より劇場公開予定。

『不死身ラヴァーズ』
監督 / 松居大悟
脚本 / 大野敏哉、松居大悟
出演 / 見上愛、佐藤寛太、落合モトキ、大関れいか、平井珠生、米良まさひろ、本折最強さとし、岩本晟夢、アダム、青木柚、前田敦子、神野三鈴
公開 / 2024年5月10日(金)より、テアトル新宿ほか
©2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社

撮影 / 加藤尚一郎 取材・文 / 折田侑駿

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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