『なんのちゃんの第二次世界大戦』『天空の結婚式』『春江水暖~しゅんこうすいだん』ミヤザキタケルのミニシアターで会いましょう 2020.12.18
日本では年間1200本以上もの映画が公開されています(2019年の実績より)が、その全ての作品を網羅見ることはどれほどの映画好きでも金銭的かつ時間的にもまず不可能です。
本コーナーでは映画アドバイザー・ミヤザキタケルが、DOKUSO映画館が掲げる「隠れた名作を、隠れたままにしない」のコンセプトのもと、海外の小規模作品から、日本のインディーズ映画に至るまで、多種多様なジャンルから“ミニシアター”の公開作品に的を絞り、厳選した新作映画を紹介します。
助監督として瀧本智行、熊切和嘉、入江悠などの監督作品に携わり、ぴあフィルムフェスティバルや、ゆうばり国際映画祭での受賞経験を持つ河合健監督。最新作『なんのちゃんの第二次世界大戦』は、吹越満を主演に迎えてオール淡路島ロケを慣行。平和記念館設立を目指す市長と、それに反対する戦犯遺族との対立を描いた物語である。
『なんのちゃんの第二次世界大戦』1/9公開
©なんのちゃんフィルム
誰もが向き合うべきでありながらも、漠然としか捉えることのできない「戦争」や「平和」について思考を巡らせる機会を与えてくれる作品となっている。
数ある戦争映画の中でも、本作は異質である。それはネガティブな意味合いではもちろんなく、ポジティブな意味合いで異質と言える。戦争映画を目にする以上、ある程度の知識や覚悟を求められる。時代毎の歴史的背景を把握できていてこそ汲み取れる描写や、シンプルに見るに堪えない描写が付き纏う作品が多く、軽い気持ちで臨むのは困難である場合が殆ど。
だが、本作に限っては細かな歴史的背景を把握しておらずとも理解でき、目を背けたくなるような描写も訪れない。それでいて、戦争や平和などの根本的な問題以前に、どうしたら人と人は分かり合えるのかという、誰もが容易に答えを導き出せない領域にまで観客の心を導いていってくれる。題材的には間違いなく戦争映画の部類に入ると思うのだが、良い意味で敷居が低く、見る者を選ばず、多くの気付きを与えてくれる。
「戦争の愚かしさ」と、「平和の尊さ」を、僕たちは知っている。でも、それは教育によって培われたものが殆どで、確かな実感までは得られていない。叩かれたら叩き返したくなるし、蹴られたら蹴り返したい。それは日常における些細なやり取りかもしれないが、その延長線上にこそ報復の概念が存在する。
戦争を反対しながらも、戦争行為へと至る種を僕たちはこの身に宿している。過去と向き合うことも大切だが、“今”何と向き合うべきなのか、相容れない人やものと遭遇した時にどう行動するべきなのか。それらを突き詰めていく価値を、劇中の人間模様を通して垣間見ることができる。
決して重すぎず、かと言って軽すぎず、映画としての面白さやファンタジーを有している点も本作の魅力の一つである。
『なんのちゃんの第二次世界大戦』
© なんのちゃんフィルム
配給:なんのちゃんフィルム
2021年1月9日(土)より淡路島先行上映
2021年3月上旬より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
『天空の結婚式』1/22公開
©Copyright 2017 Colorado Film Production C.F.P. Srl
ニューヨークのオフ・ブロードウェイにてロングラン上演された大ヒット舞台「My Big Gay Italian Wedding」を、イタリアのコメディ映画界の重鎮アレッサンドロ・ジェノヴェージ監督が映画化。
『天空の城ラピュタ』のモデルとなったイタリア・ラツィオ州にある分離集落「チヴィタ・ディ・バニョレージョ」が舞台。結婚を決意した同性カップルが、互いに親の理解を得て結婚式を挙げるまでの大騒動を通し、世代の違いがもたらす価値観の違いや、他者を受け入れ尊重することの難しさを描いた作品となっている。
近年、多くの人々の苦労や努力や勇気の甲斐あって、LGBTQへの理解が深まり、不要な差別や偏見が軽減してきている。無論、まだまだ課題は尽きず、理解したつもりでいるだけの人や、他人事と割り切っている人もたくさんいる。
記憶に新しい足立区議の差別発言然り、真っ向から拒絶を示す人も中にはいる。映画業界においても一種のジャンル映画のように扱われ始め、「LGBT(Q)映画」という言葉をよく耳にする。そういった作品が存在するからこそ深まる知識や理解があるのは確かであるが、本来あるべきは「LGBT(Q)映画」と呼称することなく、「恋愛映画」や「ヒューマンドラマ」などにカテゴライズされることにあると思う。
とは言え、まだその段階にまで達していないのが現実。そして、大抵の「LGBT(Q)映画」は、その内容が重く悲しい展開へと至ることが多い。それもまた、今ある現実を強く反映・象徴しているのかもしれない。
しかし、本作の場合は少し違う。カミングアウトするも父親に受け入れて貰えなかったり、世代の違い故に生じていく不和も描かれてはいるものの、笑えてしまう場面も訪れる。むしろ、最後には笑って作品を観終えることだってできてしまう。
LGBT(Q)映画は戦争映画同様、一種の覚悟が求められる類いのジャンルだと高を括っていたが、完全に考えがひっくり返った。こんな作品もあって良いのだと、これからどんどん増えていくべきなのだと思えた。
また、こういった温度感の作品であるからこそ、自分事に置き換えて考える余白を、理解を示せない側の心持ちすら汲み取る余裕を、この現実社会において相互理解を果たしていくための可能性を模索させてくれる。それは、とても価値のあることだと僕は思う。
『天空の結婚式』
©Copyright 2017 Colorado Film Production C.F.P. Srl
配給:ミモザフィルムズ
2021年1月22日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテほか全国順次公開
『春江水暖~しゅんこうすいだん』2/11公開
©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved
中国の新鋭監督グー・シャオガンの『春江水暖~しゅんこうすいだん』。初長編作品ながら、カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選出され、国内外で大きな注目を集めている。監督の故郷である杭州市富陽区を舞台に、再開発や時の流れがもたらす変化に翻弄されながらも懸命に生きていく親子三代の一年の歳月を映している。
日頃皆さんはどのようにして見る映画を決めているだろうか? 俳優・監督・予告編・TV・雑誌・WEB・SNS・インスピレーション・映画祭での受賞有無など、人それぞれに判断基準は異なるはず。
実は、僕が初めてこの作品の存在を認識した時はこんな風に思っていた。力強く叫べばまるで必殺技のように聞こえるタイトル、150分という見るのが少し億劫になる上映時間、全くもって馴染みのない監督に俳優陣。つまりは、面白い作品だという確信を持てずにいた。
それでもカンヌで選出されたという担保があるため、「一応見ておくか」程度の軽い気持ちで鑑賞した。だが、作品を見終えた今ならハッキリと言える。映画が好きなのであれば、見ておかなければならない作品であると。“家族”を描いている以上、万人の心に響く作品であると。今こうして読んでくれているあなたに、是非とも劇場で見て頂きたい作品であると。
親子三代が織り成す骨太な人間ドラマとは別に、劇中において心奪われるものがある。それは、絶えず映し出される大河・富春江の存在。中国という広大な土地柄や、様々な撮影技法を用いて表現されていることも相まって、まるで河川が登場人物の一人であるかのよう。
そして、常に一定方向に流れ行く河川の在り方は、止まることのない時間の流れを、移り変わる価値基準を、常に変動していく人間関係を、ままならない人生の在り方をも指し示し、描かれていく人間模様に絶対的な説得力と奥深さをもたらしている。
2年の歳月を費やして本作を作り上げたグー・シャオガンは、現在32歳。その若さと才能には誰もが衝撃を覚えると思うが、出演俳優のほとんどが演技経験のない彼の親族であることも見逃せない。キャリアのスタートがドキュメンタリー作品であった彼だからこそ為せる技ではあるが、誰もが真似できることではない。
初の長編作品においてこれだけのクオリティを発揮する彼が、今後どのように進化(深化)していくのか楽しみで仕方がない。また、本作は物語の第一章であるため、やがて作られるであろう第二章の完成が待ち遠しい。
『春江水暖~しゅんこうすいだん』
2021年2月11日(木・祝)Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
配給:ムヴィオラ
©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved
気になる作品はありましたでしょうか。あなたにとっての大切な一本に、劇場へ足を運ぶための一本に、より映画が大好きになる一本に巡り会えることを祈っています。それでは、ミニシアターでお会いしましょう。
©なんのちゃんフィルム©Copyright 2017 Colorado Film Production C.F.P. Srl©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved
WOWOW、sweetでの連載のほか、各種メディアで映画を紹介。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』がバイブル。