深夜にチビチビ飲っていて思うこと──『雑魚どもよ、大志を抱け!』

折田侑駿


夜の遅い時間にひとりでチビチビ。しみったれた気分で飲っていると、ふと、ちゃんとやってくるのか分からない将来への期待と不安が「3:7」くらいの割合で襲いかかってくる。30代に入ったいまもなお、大人などというものになった自覚はないけれど、社会という大海原がそうたやすく渡っていけるものでないことはよく分かった。痛いほど分かった。場合によっては比喩でなく本当に痛い。何かしらの壁にぶつかるたび、期待に対して不安のほうがさらに大きくなる。

そんなとき、むちゃくちゃだった少年時代を思い出す。アルコールで胸やけする現在と比べて、酒は飲めないが期待で胸がいっぱいだった──というわけでもないのが、子どもの実情である。大人には大人のユーウツがあるように、子どもには子どものユーウツがあるのだ。うなずいているあなたの姿が見える。

足立紳監督の最新作である『雑魚どもよ、大志を抱け!』は、そんな私やあなたのいつかの日々が収められている作品である。物語の主人公は小学6年生の高崎瞬。大人になるにはまだまだ時間があるものの、中学生となるのに向かって、彼や彼の友人たちは否応なく変化していくことになる。悪友らと集まってはイタズラをしてみたり、大人をからかってみたり。


いつかきっと笑える思い出になるのだろうが、いつまでもそんなことをしているわけにもいかない。些細なことでも何かしらのきっかけがあれば、彼らの急激な成長は途端に始まってしまうのだ。自転車のキックスタンドを蹴ったならば、走り出さなければならないのと同じように。と、私がいま考えたりできるのは、瞬たちの年齢から20年もの時間を経ているから。けれども、本質的な部分は彼らと変わらない気がする。

私は自他ともに認める底なしの飲み助で、この体質は生まれ持ったものだ。しかし、ときおり顔を出す無鉄砲さは、瞬たちくらいの年頃に身につけた。大酒飲みの体質と無鉄砲な性質とが合わさったときにどんな化学反応が起こるのかというと、それは九死に一生を得ることの連続。謝意を述べるよりも土下座をすることのほうが日常的に多いのは気のせいではない。

まったく、劇中の少年たちよりもダメである。だがそんな自覚のある私自身、周りの人間も自分と大差ないように思っている。瞬とその友人たちが似た者同士であるように。みんな期待と不安との間でもだえる日々を過ごしている。やはり年齢を重ねても、誰もが自分の中に幼児性を持ち続けているのだ。


文章を書いたり、歌ったり、踊ったり、役を演じたり、映画を撮ったり、絵を描いたり──。何かをクリエイト(=表現)するその根源には、基本的に幼児性があるのだと思っている。子どもの頃のあの自由な心を忘れてしまっては、周囲の目(=社会)が気になってしかたがないだろう。私も、私の周囲の人々もそう。いつまでも子ども。誰一人として、かつて自分が思い描いたとおりの姿をしていないのではないか。

もちろんそれはネガティブな意味合いではなくて、誰もが少年少女の頃のように、活き活きとしているから。このDOKUSOマガジンに関わっている人々も同じなのではないかと思う。みんな独創的だ。子どもらしいマインド──つまり幼児性──は、その人をかたちづくる細部にも反映される。しかし深酒をした翌日の夕方に鏡を見れば、そこにはたしかに年齢を重ね、社会の波に揉まれた自分と思しき人間がいる。あの「雑魚」だった頃から、少しは成長できただろうか。しみったれた気分よりも、抱くならば「大志」である。


『雑魚どもよ、大志を抱け!』
監督 / 足立紳
出演 / 池川侑希弥、田代輝、白石葵一、松藤史恩、岩田奏、蒼井旬、坂元愛登、臼田あさ美、浜野謙太、新津ちせ、河井青葉/永瀬正敏
公開 / 3月24日(金)より新宿武蔵野館 他
©2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会

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折田侑駿 文筆家

“名画のあとには、うまい酒を”がモットー。好きな監督は増村保造、好きなビールの銘柄はサッポロ(とくに赤星)。

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