毎熊克哉×小路紘史監督(前編)ー出会った日に語った『ミリオンダラー・ベイビー』のこと

毎熊克哉


撮影 / 角戸菜摘

今回は小路紘史監督をゲストにお招きした対談回(前編)となります。映画学校で同期のお二人が仲良くなるきっかけとなった作品『ミリオンダラー・ベイビー』について語っていただきました。

・あの夜に『ミリオンダラー・ベイビー』の話題で盛り上がったのが仲良くなったきっかけだった──毎熊克哉 

・この映画の話をするのは出会いの日以来ですが、ボクサー役が似合うだろうなとずっと思っています──小路紘史監督

毎熊「今回は盟友の小路綋史監督と『ミリオンダラー・ベイビー』について語ろうと思います。僕たちは映画学校の同期で、今日まで切磋琢磨してきました。ひろしと初めて出会ったのは18歳の時、狭いおでん屋だったよね?それまで接点はなかったけど、お互い同期のマッツンに呼ばれてさ。あの夜に本作の話題で盛り上がったのが仲良くなったきっかけだった」

小路「“好きなものが一緒”ということでかなり盛り上がったよね。あの日を境に交流が始まって、僕が初めて撮った短編映画の撮影にも手伝いに来てくれたり。しかも照明担当で、まさか役者になっていくとは(笑)。その作品の音楽に『ミリオンダラー・ベイビー』の曲を使ってた」


イラスト / 柳田優希

毎熊「本作は好きな映画の“トップ8”に入るんだよね。同じくイーストウッドの代表作『許されざる者』もそうだけど、陰影が強い。この陰影が映像的にいろんな事を表現してる」

小路「撮影部の人は大変だと思うよ。“え、これでいいんですか?”って(笑)。イーストウ ッド作品のメイキングを観ると、彼のこだわりが分るよね。“照明はライト一つでいい”と照明部の人とケンカをしたり」

毎熊「変わってるよね。この映画を観るたびに思うのは、ボクシングシーンがけっこうユルいこと。ミットの持ち方とか甘すぎて、“絶対にこんなところで強いボクサーは育たないよ!”っていう(笑)。ヒラリー・スワンクは頑張ってるけど、ボクシング関係のリアリティにはあまりこだわってない。ところどころそういう要素があって。そこも含めて好き」


撮影 / 堀弥生

小路「イーストウッドの映画って、適当なところは適当だよね。そこで勝負をしているわけじゃない。訴えるべきテーマはまた違うところにあるから。僕はこれが初めて映画館で泣いた映画なんだ。最後に突き落とされて衝撃的だった。彼の映画は軽いタッチで描いていても、根底には“喪失”があるよね。影の演出以外には『ミリオンダラー・ベイビー』のどこが好きなの?」

毎熊「やっぱり、ツッコミどころの多さかもしれないな。完璧じゃないというか。芝居の演出に関してもそうで、びっくりするぐらいわかりやすい部分もある。でも、映画全体の空気は安く感じないんだよね。グルーヴとか、余韻がある」 

小路「スキがあるんだよね。計算されて細部まで作り込まれたある種の完璧な映画って、二度目を観たいとはあまり思わない。一度で十分。この映画を何度でも観たくなる理由は、そういうスキにあるのかも」


撮影 / 堀弥生

毎熊「音楽で例えると、デジタルを駆使して完璧なものが作れるかもしれないけど、人間が集まって生演奏から生まれるズレや不規則さが好き。その場で生まれるノリや高揚感はパソコンでは再現できないし、完璧ではないからね」

小路「こんなに『ミリオンダラー・ベイビー』の話をしたのは出会ったあの日以来だけど、ボクサー役が似合うだろうなとずっと思ってるんだよね。ストイックだし、性格的にも合うはず。出会った頃からそうだけど、普段から飾らない、嘘をつかない人だよね。佇まいもいいし、ダンスをやっていたからかセンスもいい。ドラマチックで壮大な作品にもハマると思うんだ。日常では考えられない展開が続くような」

毎熊「やりたいとは思ってるよ。でも周囲の方々がそういうイメージを持ってないのかも。たぶん存在が地味なんだよね。どこにでもいそうな感じ。自分自身、演じるときは実在感を心がけているけど、ドラマチックで壮大なのもやってみたいな。そういう映画を撮るときは声をかけてよ!お互い『ケンとカズ』で世に知ってもらったけど、次は周囲のイメージをひっくり返すような映画に挑戦できたら、それは面白いものになるはず」


撮影 / 堀弥生

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『ビリーバーズ』、『そして僕は途方に暮れる』。最新作「世界の終わりから」(紀里谷和明監督)が4月7日(金)より新宿バルト9他で全国公開される。

小路紘史
しょうじひろし|映画監督
1986年生まれ、広島県出身。短編映画『ケンとカズ』が、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2011にて奨励 賞を受賞。ロッテルダム国際映画祭、リスボン国際インディペンデント映画祭 など4カ国で上映される。 2016年に『ケンとカズ』を長編版としてリメイク、東京国際映画 祭日本映画スプラッシュ部門作品賞、新藤兼人賞・日本映画監督新人賞など、数々の新人監督賞を受賞。現在、最新長編映画「辰巳」を公開に向け準備中。

スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 木内真奈美(OTIE) 文 / 折田侑駿
衣装(1枚目の画像) / ジャケット¥37400、ロングTシャツ¥12100/ともにVU、パンツ¥35200/Ohal<問い合わせ先>JOYEUX/03-4361-4464

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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