鳴海唯×外山文治 ─幸運の女神は微笑み、やがて彼女が映画にとっての女神となる

外山文治


レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉を借りれば、幸運の女神はショートカットらしい。これは人生の機運は通り過ぎた後で慌てて捕まえようとしても、後ろ髪がないので掴めないことを指している。今回のゲスト、鳴海唯さんと対談しながら私はその言葉を思い出していた。彼女のショートヘアがとても似合っていたからだけではない。鳴海さんに機運を掴む才を感じたのである。

「小学校の頃に家族で見た「のだめカンタービレ」の上野樹里さんに憧れていました。本当に私はのだめって女の子が存在すると信じてたので、演技というお仕事があることを知って衝撃を受けたんです。だから私も女優になろうと思いました。関西の大学で演技を学び始めて、でもそこは白塗りのアンダーグラウンドの芝居や座学だったりで、当時の私が憧れた種類のものではなかったんですね。それで大学を一学期で辞めて上京しました」


親には怒られました、と恥ずかしそうに笑う鳴海さんだが、踏み出すことに躊躇はなかった。それは当時タイミングよく地元で撮影された『ちはやふる』にエキストラ参加した時に同年代の女優陣(たとえば広瀬すずさんなど)が活躍する姿を見たからなのだそうだ。今ここにいては憧れの場所に届かないと直感した彼女は東京に出てすぐに演技レッスンに通い出し、やがて朝の連続テレビ小説「なつぞら」に出演を果たすことになる。ヒロインは広瀬すずだ。私は鳴海さんのその階段を駆け上がる速度に唖然とする。実力や魅力があるのは当たり前のこの業界で、ここまで軽やかにステップアップできるものだろうか。機運を掴む才能を感じずにはいられない。

「でも、現場では憧れの共演者さんと自分との差を目の当たりにして、自分が何もできない人間だと思い知らされました」

どういうところが自分とは違うと思ったのだろうか。

「皆さん常に作品のことを考えていらっしゃるんです。私みたいに自分の芝居ばかりで頭がいっぱいになっていた人はひとりもいなくて、常にスタッフさんや共演者を気遣いあってました。そこは「有名になりたい」「お芝居したい」って軽い気持ちだけじゃ絶対に立ち入ることができない世界だと感じました。それに、皆さん華があるんです。映像に映った瞬間にパアっと輝くんですね。自分は垢抜けてなくてどうしようって思いました」


自分の実力の無さを痛感したというが、最高峰の現場でプロフェッショナルに囲まれる機会を得られる俳優が日本に一体どれほど居るのだろうか。彼女の快進撃は続き、その後もドラマやCM、モデル、そして主演映画『偽りのないhappy end』でも堂々たる芝居を披露している。多岐に渡る仕事の中で、彼女にはある想いが芽生えているようだ。

「語弊を恐れずに言うと、もっとメジャーになりたい、なっていく必要性を感じてます。商業ベースではないものやミニシアター作品もとても好きなのですが、自分のことを知って貰えていれば、出演した際にもそのような作品が、多くの方に観て頂ける機会が増えると思うんです。この仕事を始めたきっかけは誰かを笑顔にしたいというものですから、日本全国の方が見ているような作品で広く活躍したいと思っています。そして見られる機会の少ない良質な作品にも出演していきたいです」

 ただ無邪気な想いだけではなく、毎日誰かに嫉妬したり自己嫌悪になったりしながら平気な顔してますよと苦笑する鳴海さんの挑戦の日々は続く。想いを形にできる人には理由がある。行動力があり引き寄せる力もある。Seize the fortune by the forelock.(幸運の女神は前髪しかない)。鳴海唯さんに幸運の女神は微笑み、やがて彼女が映画にとっての女神となる。


外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。最新作『茶飲友達』が全国公開中。

鳴海唯
なるみゆい|女優
1998年5月16日生まれ。兵庫県出身。2019年、NHK連続テレビ小説「なつぞら」にてテレビドラマ初出演。その後もドラマ、CMなどで活躍の幅を広げ、映画『偽りのないhappy end』では初主演を務めた。近作に「すべて忘れてしまうから」(Disney+)がある。現在放送中の「ひともんちゃくなら喜んで!」(ABCテレビ・テレビ朝日)には常盤舞子役でメインキャストとして出演。

撮影・文 / 外山文治

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外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

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