『タイタニック』との出会いは貴重な“原体験”【毎熊克哉 映画と、出会い 第2回】

毎熊克哉


連載の第一回目で取り上げた作品が『竜二』だったので、次は何にするか悩みました。そこで今回は、幼少期の“原体験”ついて語ってみようかと。そうしたときに思い浮かぶのは、ジェームズ・キャメロン監督の作品。キャメロン作品は『ターミネーター』シリーズはもちろん、大好きな作品が多く、欠かさず観ていました。その中でも、映画館での鑑賞体験として圧倒的なのは『タイタニック』です。当時僕は小学5年生で、二週続けて観に行きました。一度目は母と妹と、二度目は一人で。社会現象と呼べるほどの一大ムーブメントを巻き起こしていて、小学生の間でも話題になるほどでしたね。

イラスト / 柳田優希

一度目の鑑賞では、終映後からずっと『タイタニック』のことしか考えられない状態になってしまいました。何かに支配されたような感じで、学校へ行っても上の空。“もう一回観ないとダメだ”と、次の週末に一人で観に行ったんです。

その頃から割と一人で映画館に行くことはあったのですが、このときの“自分の強い意志で二度目を観に行った”という記憶は今も鮮明に残っています。幼少期に映画を好きになっていなかったら、俳優の仕事はやっていなかったはず。心がザワついて劇場に行くことを駆り立てられた経験は、僕の貴重な“原体験”になっています。


また、キャメロン作品は最新の技術を駆使した超大作映画でありながら、いつも一番記憶に残るのは人間達の姿なんです。彼が描くドラマには残酷で青く冷たい中に、体温を持った人間のリアリティがある。『タイタニック』はジャックとローズの恋物語を中心とした群像劇で、登場人物が多いですよね。小学生の僕にとって衝撃だったのは、沈みゆく船で人々の人生を垣間見てしまったことでした。

生きようとする者、終わり方を決める者、パニックの中で讃美歌「Nearer My God To Thee」を演奏する音楽隊、それらの人々を照らす無情に美しい信号弾の光。あれだけ登場人物が多いにも関わらず、一人ひとりの印象が強く残って忘れられなかった。


“どうしてだろう?”自分が映画に携わるようになってから改めて考えみたところ、俳優が素晴らしいのはもちろんですが、脚本やキャラクター造形、映像演出の緻密な計算によって作られているんだと感じます。噂では固定のエキストラ俳優達にも役名やバックグラウンドが与えられていたのだとか。

僕自身、出番が少ない役で出演するときにどう演じるべきか悩みます。何か爪痕を残したい、認められたい、など、役ではなく“自分自身“が思うこともありますが…それよりも、役のディテールを深めて画の中でただ存在することが大事なんだと『タイタニック』を観て学びました。出演シーンが少なくても客席に人生を感じさせられるんだって。役の人生を背負って体現できるのは俳優だけですからね。


二度目の鑑賞後に『タイタニック』は実際に起きた事故をベースに制作された映画だと知って、実在した船の乗客や航海士、事故の経緯など、史実にも興味を持って色々調べたことを覚えています。パンフレットにも色々細かく書いてあって、読みまくったのも懐かしい。

前回の『竜二』と違って定期的に観ているわけではありませんが、ふと観たくなりますね。でも正直迷いました…だって『エイリアン 2』も好きだし、『ターミネーター』は「1」と「2」セットで好きで、50回以上は観てると思います(笑)。そんな作品群の中でももっとも完成度が高く、大人になっても改めて“すごい”と感じるのが『タイタニック』ですね。『アバター』の続編も楽しみだなー。

撮影 / 角戸菜摘 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 木内真奈美(OTIE) 文 / 折田侑駿
衣装 / シャツ¥33000、パンツ¥28600/ともにANEI <問い合わせ先>JOYEUX/03-4361-4464

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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