僕の人生を変えてくれた映画『刑事物語2 りんごの詩』 2021.5.12
©1983 東宝
名前は片山元(かたやまはじめ)。ずんぐりむっくり。強いんだか弱いんだかわかんない。
そんな男が主人公の映画『刑事物語2 りんごの詩』は、僕の人生を変えてくれた一本です。
1983年(昭和58年)、今から約40年前に公開されました。
タイトルに「2」とありますが、前作を見ていなくても問題ありません。開始5分でわかります。武田鉄矢さん演じる片山刑事は、普段は冴えない男で、女性に優しく、正義感にあふれ、ときに暴走してしまう人物なのだと。
僕が本作に出会ったのは小学生のころ。父がテレビ放送を録画したものを見せてくれたのがきっかけです。「まだちょっとむずかしいかもなぁ」と言いながら再生してくれました。
あのとき、僕はすべてを理解できなかったと思います。だけど「胸が掻きむしられる」経験をしたことに間違いはありません。片山刑事の生き様は小学生の僕にも届き、今でも大きな影響を与えているのですから。
青森県は弘前署の刑事である片山。札幌で起きた現金輸送車襲撃事件の捜査協力で、りんごの種を調べることになります。りんご試験場の職員・忍(しのぶ)と恋に落ちるのですが…。
©1983 東宝
とにかく不器用で、愚直で、胴長短足で…。誰がどう見ても冴えない男です。忍へのアプローチも、お世辞にもスマートとは言えません。
ですが、片山刑事には言い表せない哀愁があり、片山刑事が惚れる忍にも悲哀を感じさせるものがあります。お互いが抱える哀しみを知らぬまま惹かれ合うのですが、安心して見ていた僕に待ち受けていたのは、二人が凶悪事件に巻き込まれていく展開でした。僕は父に隠れてみぞおちを握り、目に必死に涙を溜め、こぼしたことを覚えています。
生きていると、こんなに辛い思いをしなくてはいけないのか、心が張り裂けそうになりながら、涙で歪む画面を必死で見続けたのです。
劇中、片山刑事も泣き喚くシーンがありますが、それは悲しみに抗うため、力を振り絞り溢れ出る涙と叫び。本当に強くて、悲しい人。僕は片山刑事のような強い心を持てるだろうか。傷だらけで、原型がわからないほど削られて、それでも優しい光を放つ心を。
早く大人になりたいと思っていた僕が、大人になることの恐怖を感じた瞬間でもありました。この時、僕の胸に刻まれた傷が、40歳を超えた今も残っています。忘れたころにその古傷がチクチクと疼きだし、本作を見返しているのですから。
僕はいま、国の指定難病を患い治療を続けています。と書くと大ごとのように聞こえるかもしれませんが、数ヶ月の入院を経て数年前に退院し、現在の経過は良好で日常生活に不自由はありません。でも、一時は医師が「最大限の治療をします」としか言えない状況でした。
しかし、病名と状況を告げられても、不思議と泣き喚くことはありませんでした。恐怖がなかったとは言いません。すべてを諦めたわけでもありません。ただ、目の前の事実を受け止められたのです。次に自分ができることは何かと、向き合うことができたのは片山刑事のおかげかもしれません。
こうして大人の階段を上るにつれてわかってくることもあります。片山刑事の強い心は、人を支え、支え合って生まれているのだと。当時は無敵に見えた片山刑事が、人に寄り添い、癒やしながら癒やされていることに気がついた時、人間はどこまでも優しくなれると再認識するのです。
しかし、令和のいま、昭和の作品を見ることで粗さや、アクションの派手さが劣ること、何より性差など価値観の古さが目につくことも事実です。ですが、それらを遥かに超える、凌駕する、片山元こと武田鉄矢の格好良さ、生き様が本作にはあります。
昭和から平成を経て令和になっても、生きにくさはちっとも変わっていないし、なんだったらコロナで息が詰まる世の中です。それでも片山刑事ならどう生きるだろうか、もがきながら、苦しみながら、呻きながら、一歩ずつ前に進むだろうか、そう考えると勇気が湧いてくるのです。
©1983 東宝
「人は、強くならないと、大好きな人はみんな遠くにいってしまう。だからこそ強くなれ、早く、早く強くなれ!」
そう叫ぶ片山刑事の声を、本記事を書くために再鑑賞したことで、また刻み込むことができました。
エンディングテーマは吉田拓郎さんの「唇をかみしめて」です。これ以上ない、完璧のタイミングで流れ始めます。僕はもうこの曲だけで泣けるくらいです。
刑事物語、シリーズは第5作まであります。どれもすばらしい内容です。何度でも人生を変えてくれる、応援してくれる映画です。ぜひ見てください。
©1983 東宝