日常はいつ戻るのだろう。 ー 映画『その夜の侍』 2021.1.22
2021年になった。
「ここ最近で使うようになった言葉ランキング」を付けるなら、
僕の1位は「ご時世」だろう。吉田仁人です。
もう少しで僕たちは、この混乱のご時世に置かれて1年になる。品切れが続いたマスクや消毒液がどこに行っても買えるようになった。街も段々と慣れてきたようだ。それでも人と人との間にはアクリル板が置かれている。
技術の進歩、対応の速さ。僕の、いや皆の知らない所で例年以上に働き詰めになっている人々の努力が、今を作っていることを忘れてはいけない。そう思っている。
そしてふと最近考えた。今まであった日常がどれだけ幸せなものだったか—。
こんな今だからこそ、見てほしい作品がある。
今回紹介するのは堺雅人、山田孝之主演の映画『その夜の侍』だ。
©2012「その夜の侍」製作委員会
小さな鉄工所を営む中村(堺雅人)は5年前、トラックを運転していた木島(山田孝之)に愛する妻を轢き逃げされてしまう。中村は妻を忘れることが出来ず、彼女の声が入った留守番電話を何度も聴きながら、食べすぎを注意されていたプリンを食べ続けている。一方、刑期を終えて出所した木島の元には匿名の脅迫状が届くようになる。
そして遂に2人は、彼女の5回目の命日に対峙する—。
壊れた登場人物たち
この物語に出てくるキャラクターは、それぞれが孤独で哀愁を帯びている。中村、木島、中村の義弟、木島と偶然出会い巻き込まれていく人々…。
この事件は、木島が運転中に脇見をしたことで起きる。タバコの灰を落とした、そのほんの些細な一瞬で、木島と中村、そして彼らを取り巻く人々の人生は大きく変わってしまうのだ。そして、事件がなければ彼らのコミュニティーに生涯関わることの無かったはずの人々も巻き込まれていく。
逃げたくても逃げ出せず、ずるずるとその渦中に引き込まれていく彼らは、もしかすると始めからどこか壊れているのかもしれない。
取り戻したかったものとは
この物語の登場人物たちは、それぞれが「何か」を事件で失い、それを取り戻すために奔走しているように見える。
©2012「その夜の侍」製作委員会
全員が一つの目的のために動いているのだが、彼らは恨み合い、ぶつかり合う。
そんな彼らが取り戻したい「何か」を考えながら見てほしい。
役者、堺雅人
僕は堺雅人さんを小さい頃から尊敬している。温厚そうでありながら眼光は鋭く、格好よくも泥臭くもなれる。素晴らしい役者だと思う。
©2012「その夜の侍」製作委員会
他にもたくさんの作品を観てきたが、本作『その夜の侍』のラストシーンの表情は、僕の好きなシーンランキングを付けるなら必ず入ると言っても良い。是非注目していただきたい。
さいごに
今回は、映画「その夜の侍」を紹介した。
僕はこの物語に登場する彼らと、今の僕たちは似ていると思う。大切なものを奪われ、孤独に苛まれ、かつてを取り戻す為にそれぞれが奔走し、対立し合う。
僕の頭ではこれの解決策は浮かばない。いや、ベストアンサーを出せる者などいないだろう。
一人一人が問題を解決する為にもっと柔軟に、純粋になれたのなら…。
戻った日常は、恐らく元の日常とは違うだろう。
それでも僕らはその中に、きっと幸せを見つけられる。
そう信じている。
©2012「その夜の侍」製作委員会