3月ということで、卒業や旅立ちの時期にぴったりな『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』をご覧いただきました。スラムで育ち、大学の清掃員をしているウィルが、黒板に書かれた数学の難問を解いてしまったことで人生が大きく変わっていく物語です。本作をご覧になっていかがでしたか？

最初は、ウィルが抱えるトラウマを軸にお話が進み、少しずつ心を開いて成長していくのかなと思って観ていました。でも中盤からは家族を超えた人間関係も描かれていく作品でした。

そうなんです。ちなみにウィルを演じたマット・デイモンと、その親友を演じたベン・アフレックの２人が脚本を書いているのはご存知ですか？

えっ！それは知らなかったです。お２人は、そんなこともできるんですか！

そう。２人が初めて脚本を書いた物語であり、見事アカデミー脚本賞を受賞した夢のような物語でもあるのです。その後の２人の活躍は言うまでもないですが。

それを知るとより意味を深く感じます。ひとつ気になったところがあって、本作は過去の描写が無いですよね。トラウマの原因となったことを見せずにセリフに詰めていたと言いますか。ウィルが彼女と別れ話をするシーンでも、喧嘩をするとか、罵り合うわけでもなく、あるセリフだけでこちらに感じ取らせるようになっていたといいますか…。

おっしゃるとおり、過去は描かずに現在進行形のお話なんです。例えばウィルが子供のころに虐待されたシーンなども一切ない。それが本作の素晴らしいところで、そのシーンがなくても言葉だけで実感できてしまう。ロビン・ウィリアムスが演じる精神分析医の先生が見事にウィルを諭すシーンでも過去の描写は入ってこない。画がなくても伝わる脚本力と、それに連なる役者の上手さがあるんですよね。

観ている人が頭で補完することで、より深く理解できるのかなって思います。考えすぎかもしれませんが、登場人物と同じ経験をした人たちを勇気づけるために、あえてフラッシュバックさせない演出にしているのかな、とも思ったり。

あえて見せない演出でもあるでしょうね。監督のガス・ヴァン・サントは多くの作品を撮っていて、美しい男の子を撮るのがすごく上手なのですが、役者の脚本で映画を撮る人ではないのでびっくりした思い出があります。まだまだ経験が浅かったマット・デイモンとベン・アフレックの２人の脚本を、監督含め経験豊富な役者やスタッフみんなで支えて作っているからこそ本作が素晴らしいものになったのだなと。

環境や流れは違いますけど、作中のウィルを先生たち大人や親友が支えるのと似ていて素敵ですね。最初に少し別れ話のシーンのことを話しましたけど、ウィルにとっては恋人の存在も大きかったですよね。やっぱり恋愛って人を変える力があるんだなって思いました。

まさしく、先生や親友がウィルを支えてきたことは間違いないのですが、彼女の存在がウィルに本当に大きな影響を与えましたよね。彼女、親友、先生との関係が、家族を超えた存在になってくる。

ウィルは誰よりも頭がいいけれど、誰よりも人間らしくないというか。どれだけ頭が良くても、それだけで上手く生きていけるわけではないんだなと。

そうですね。地位や名誉のある人が幸せかと言うと、そうでもなかったりしますからね。でも逆に何も持っていなくても日々幸せを感じる人もいますし、幸せはそれぞれによって違いますよね。

この映画の登場人物が一つの方向だけでなく、それぞれのゴールに向かっていくのは、そういうことですね。

いくら頭が良くても、それですべてを知った気になるなよってこと、それがいかに狭いことかも教えてくれる。もっと言えば、この映画を観てわかった気になるなよってことも。（笑）

ウィルのような才能を持っている人のことを羨ましいと思いながらも、才能だけじゃ幸せになれないこと、才能があることが幸せにつながるとも限らないと教えてもらいました。この作品を観てからどんな人生を歩むのか、何を思うのか、それこそが大切なことですね。新社会人、新入生となる人はもちろん、新しいことを始める誰もの心に響く作品だと思います！